『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』にリアリティが生み出された背景とは?

『悪魔のいけにえ』新作が見出した光明

 そのような試みは、田舎や地方の文化を差別しているのではないかという指摘もあるだろう。しかし、現在でも南部では保守的な地域性が見られるのは事実で、とくにテキサス州では、最近も人種差別をテーマにした児童書がボイコットされたり、一般市民が銃を目に見えるかたちで携行(オープンキャリー)する光景が普通であることも確かなのだ。

 テキサス州は、そんな環境のなかで近年も銃乱射事件が続いているにもかかわらず、2021年には銃の法規制が逆に緩和され、免許を持たず安全講習すら受けなくても、銃のオープンキャリーが許可されるようになった。このように、時代に逆行するようなことが実際に行われている事実が、本作のような南部への不安を描く創作物の存在意義を支えてしまっているともいえるのだ。

悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-

 「レザーフェイス」は、繰り返し繰り返し、時代のなかでスクリーンに登場してきた。それは、『悪魔のいけにえ』の第1作が愛されている証左であるのはもちろんだが、彼が求められる潜在的な理由は、現在までに続く、民衆の側から発生する暴力や事件が、いつまでもなくならないことや、そのことに対する不安が持続しているからこそであるといえよう。

 本作のレザーフェイスは、50年前の事件以来、大人しくこのゴーストタウンで暮らしていたという設定。自分の面倒をいままでみてくれていた女性が、若者たちが町にやってきたことをきっかけに亡くなってしまうことで復讐心を燃やし、かつてのような殺人鬼として復活するのだ。見どころは、多くの若者たちを乗せたバスに、チェーンソーを持ったレザーフェイスが乗り込んでくる場面である。逃げ場のない車内で、回転するノコギリの刃が迫り、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開する様子は凄まじい。

悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-

 そして、この町にショットガンで武装した一人の老齢の女性が現れる。じつは彼女は、第1作にも登場した“あの人物”なのだ。当時の俳優は亡くなっているので、異なる俳優(オルウェン・フエレ)が演じているものの、レザーフェイスとの因縁のバトルが展開する趣向にはアツいものがある。この廃墟が並ぶゴーストタウンで、生き残った若者たちと、因縁の女性が力を合わせ、傷つきながらも信念に支えられた熾烈なバトルを繰り広げていくのである。その光景は、先日放送を終えたTVアニメ『鬼滅の刃』 遊郭編を想起させるものがあった。

 しかし、レザーフェイスが象徴的存在である限り、この戦いに本当の終わりをもたらすためには、現実の世界自体が変わる必要があるだろう。老齢の女性が、「逃げるな! 逃げれば一生あいつに取り憑かれる」と若者を鼓舞するように、本作は、レザーフェイスという存在を通し、現実にある不安や恐怖から逃げるのでなく、不安の原因に対処することが重要だと語りかけているように感じられるのだ。その意味で本作は、時代とともに繰り返し作り続けられる『悪魔のいけにえ』の構造を俯瞰し、その凄惨な反復のなかに、一つの光明を見出したということなのかもしれない。

■配信情報
『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』
Netflixにて独占配信中
監督:デヴィッド・ブルー・ガルシア
脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス、クリス・トーマス・デヴリン
出演:サラ・ヤーキン、エルシー・フィッシャー、マーク・バーナム、ジェイコブ・ラティモア、モー・ダンフォード、オルウェン・フエレ、アリス・クリーグ、ジェシカ・アレイン、ネル・ハドソン
Yana Blajeva / (c)2022 Legendary, Courtesy of Netflix

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