“やるせなさ”を体現するエル・ファニングの真骨頂 『選ばなかったみち』が映す人生の酸い

『選ばなかったみち』が映す人生の酸い

 そのモリーのやるせなさは、もう何を言っているのかわからない父に振り回されて、自分の仕事も十分に行えないことにある。劇中、彼女は何度も仕事関係の電話を受け取る。しかし、その度にレオが何かをやらかしてしまって、モリーは電話相手に「かけ直すから」と言うしかない。そして劇中、ある出来事をきっかけにモリーの母が登場する。彼女はレオとはとうの昔に離婚していて、すでに新しい夫と別の人生を歩んでいた。レオの面倒を見るのは、モリーだけ。そして1日の中で何度も彼女は父に対して失礼な相手と闘う。レオを守ることができるのも、守りたいと思うのもモリーだけなのだ。では、モリーのことは誰が見て、誰がサポートしてくれるのか。昼には出社するはずだったのに、父の予想外な動きによってその仕事もどんどん危うくなっていく。作家である父に触発され、文章を書いているモリー。本当は取材で旅をするから、ずっと側にいることもできない。こういったヤングケアラーの苦悩を等身大に描いている点も、本作の大きな見どころでありテーマだ。

 そしてだからこそ、ずっと振り回され受け身でいるしかなかったモリーが、最終的に自分自身の(そして、それは同時にレオにとっても)人生の決断を下すというラストは心に響く。そこでは、選ばなかったみち(幻想)ばかりに囚われ、その時間に生きていた父がようやく目の前の現実を、自分が“選んだみち”を見つめる。そしてモリーからは一つの真実と“二つの選択”が展開される。一体どちらが彼女が“選ばなかったみち”なのか、我々に託されるそのラストの演出は、秀逸で衝撃的だ。

■公開情報
『選ばなかったみち』
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
監督・脚本:サリー・ポッター
出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
配給:ショウゲート
2020年/イギリス・アメリカ/英語/86分/カラー/スコープ(シネスコ)/5.1ch/原題:The Roads Not Taken/日本語字幕:稲田嵯裕里/G
(c)BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

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