NHK名古屋ドラマ制作撤退を惜しむ 『中学生日記』『のほほん』など名作を生んだ独自性
このようなコメディ路線のドラマも名古屋放送局の作品には多い。言いたいことが言えずに鬱屈している小学校教員の女子がネットで知り合った謎の男と関わることで成長していく姿を描いた『恋するハエ女』(2012年)、特撮オタクの女性を主人公にした『トクサツガガガ』(2018年)、ミャンマーから日本に漫画留学した青年と女幽霊と関わる姿を描いた『彼女が成仏できない理由』(2020年)。お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹のエッセイに綴られた二人の共同生活を映像化した『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(2021年)はコメディドラマの傑作だが、NHK名古屋放送局らしいと感じるのは「他人に自分のことを理解してもらえない孤独」が背景にある作品が多いということ。だからこそ、どの作品にも楽しさの中にふと寂しさが漂う作りとなっている。
どんな作品であっても丁寧に作品が作り込まれているのが、名古屋放送局の作るドラマの特徴で、だからこそ忘れられない作品がたくさんあるのだろう。
最後に、名古屋放送局制作のドラマで、筆者が一番好きな作品を上げたいと思う。2009年に放送された『リミット-刑事の現場2-』(以下、『リミット』)だ。
本作はベテラン刑事の梅木拳(武田鉄矢)と若手刑事の加藤啓吾(森山未來)がコンビを組んで事件の捜査にあたる刑事ドラマ。『リミット』は2008年に作られたドラマ『刑事の現場』の続編。定年退職間際の団塊の世代の刑事が若手刑事に特別な指導をおこなっているという実話をベースにしたドキュメンタリー的なドラマだった『刑事の現場』に対し、続編となる『リミット』は犯罪者と刑事たちが抱える心の闇に踏み込んだ問題作となっていた。
『女王の教室』(2005年、日本テレビ系)などの作品で知られる遊川和彦が脚本を担当しているのだが、NHK名古屋放送局のドラマにあるドキュメンタリー性と、遊川が得意とするフィクションならではのケレン味ある作劇が絶妙なバランスで融合した刑事ドラマの傑作となっている。
人を選ぶ作品だが、ぜひ一度観てほしい。そして、NHK名古屋放送局が「これまで、いかに素晴らしいドラマを生み出してきたのか」を改めて知ってほしい。
※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記。