『恋せぬふたり』が掲示するリアルな幸せへのヒント 岸井ゆきのが下した“解散”という決断

『恋せぬふたり』幸せになる方法としての解散

 相手を好きな気持ちと、その人と幸せになることは、別のものかもしれない。お互いに惹かれていたとしても、その先に求めている幸せの形が違うのであれば、その歪みはいずれ大きな苦痛を生むことになりかねない。

 恋愛感情抜きの家族になることを考える、よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)だからこそ、この部分が冷静に見つめられるような気がした。“想い合う2人が一緒になりました、めでたしめでたし”では終わらない、リアルな幸せへのヒントが。

 第5話は、咲子(岸井ゆきの)に2人からの恋愛感情が向けられた。1人目は元恋人のカズ(濱正悟)、そして2人目は親友の千鶴(小島藤子)。「好きだから理解したい」と咲子に近づいていくカズと、「好きだから忘れたい」と咲子を拒絶しようとする千鶴は、実に対照的だ。

 恋愛がわからない咲子が、この2人の想いに出した答えは「解散」だった。よくバンドやアイドルグループで使われる「解散」という言葉。それは、メンバーがそれぞれ自分のやりたいことにまっすぐ突き進むため=幸せになるための決断でもある。恋人も、親友も、家族も、考え方は同じなのかもしれない。お互いに心から幸せになってほしいと願って、これまでの関係性を「解散」するということ。

 “咲子と一緒にいるためなら”と、精いっぱい努力をしたカズ。アロマンティック・アセクシュアルである羽(高橋一生)から受け取った関連書籍には付箋がびっしりと貼られ、熱心に読み込まれているのが伝わってきた。羽から問われた「恋愛感情抜きの家族とは?」にも自分なりに考え、「帰ってくる場所」と答える。いつの間にか甲冑コスプレに身を包み、城をバックに記念撮影するほど観光モードになっていても、常に頭の片隅にその問いについて考えていたのだと思うと、その健気な姿勢には心動かされるものがあった。

 しかし、そんないい人であるカズだからこそ、咲子はカズの幸せ(=やりたいこと)を叶えてあげられないことが辛くなってしまうのだ。愛情と自己犠牲は混乱しがちだ。自分がやりたくてやっていることと、相手のためにやっていることの差が見えにくい。そして「これだけのことをしているのだから」という形で愛情を測ることが日常化すると、自分の幸せを見失っていることに気づけなくなってしまう場合もある。

 カズの恋愛感情を抑え込んだ(=カズの自己犠牲の上に成り立つ)家族は、無理のある生活になってしまうということ。咲子は恋愛感情のバイアスがないからこそ、カズの見失いそうになっている幸せを冷静に見つめることができたのかもしれない。そして「無理はしないでください」と言ってくれた羽との生活で、自己犠牲のない暮らしをする幸せを知ったことも大きかったのではないだろうか。

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