『ファイトソング』は“ラブコメ”への新しい一手に 自分たちの“恋”の型を探すこと
真剣勝負は、どんな結末を迎えるのかわからないから面白い。それはスポーツも、恋愛も、ドラマも、そして人生そのものにも通じるかもしれない。
「いらないです。“付き合わない?”とかそういうの。そう言えば、女の子が喜ぶんじゃないかなとか思っているなら、マジでいらないです」
ドラマ『ファイトソング』(TBS系)は、これまでの火曜ドラマで積み上げてきた“ラブコメ”の型を心得ながらも、新しい一手を見せてくれた。
小さなころから多くのものを失ってきた花枝(清原果耶)。亡き母が好きだったかつてのヒットソングを心の支えに懸命に生きるも、さらに奪われていく厳しい現実に打ちひしがれていたある日、その楽曲を歌っていたアーティスト・芦田(間宮祥太朗)との運命の出会う。そして「付き合わない?」と突然の告白をされて――。
ラブコメのヒロインであれば思わず“キュン!”となりそうな展開だが、「そういうのいらない」とは見事なカウンターパンチ。これが、多くの“◯◯キュン”を生み出してきた火曜ドラマという枠であることを考えると、予想外の試合展開だ。
この『ファイトソング』は、これまでラブコメ“キュン”を描いてきた火曜ドラマが、自らの実績との真剣勝負をしている作品のように思うのだ。世の中にはもちろん「そういうの」が好きな人もいる。テンプレートやマニュアルがあったほうが“正しい道を歩んでいるのだ”と安心できる人も。
それと同時に、そうではない人もいる。さらに「そういうのいらない」と言いながらも、やっぱり王道の型が嬉しいときもある。そんな矛盾だらけの人の心を動かす。それがドラマというものなのだと思うと、これまでラブコメ常勝枠の火曜ドラマが、あえてその型を外して攻めてくる感じが面白い。
『ファイトソング』では、恋愛経験のない花枝と芦田が、少しずつ「恋」を知ろうと模索していく様が描かれる。交通事故の後遺症で、もうすぐ聴力が失われるかもしれない花枝は人生の思い出に、そして人の心を動かす歌を作りたい芦田は事務所との締め切り日まで、期間限定の恋人として2人ならではの「恋」を探っていくのだ。
厳しい現実を知るタイムリミットがあるからこそ、全力を尽くして戦わなくてはならなくなった2人。人生をかけた真剣勝負になったからこそ、「恋」というものに向き合うことを余儀なくされたといってもいい。作戦会議と反省会を重ねて、人生の試練に立ち向かう同志となったのだ。
ある意味で打算的に付き合うことになった2人に対して、周囲は「それって恋?」と違和感を持つ。付き合うって、もっとドキッとしたり、キュンとしたり、好きで好きでたまらなくなって始まるもの……そんな「恋ってこういうもの」というイメージは思っているよりも私たちの中に根付いている。その型にはまらなければ、「恋」とは呼べないと言われてしまうほどに。