『ギャング・オブ・アメリカ』が描く“灰色の世界” 監督が伝説のギャングを映画化した理由

『ギャング・オブ・アメリカ』監督が語る

 本作はランスキーの語りとともに、物語が過去/現在を行き来する。各時代ごとにさまざまなギミックが使われているのも本作の見どころのひとつとなっている。

「同時代を描いている『アイリッシュマン』の予算は1億ドルと聞きましたが、こちらはわずか20日間の撮影で予算も500万ドルだけ。各時代を描くにはさまざな工夫をこらす必要がありました。いわゆる“再現”をするのには限界があるので、演出を変えることで、各時代の違いが明白になるように意識しました。劇中の現在となる80年代のシーンは、語り手が老いたランスキーということもあり、カメラのスピードもスロウにして、老人のような動きにしているんです。逆に20年代~40年代のランスキーがもっとも暴力に満ちていた時代は、カメラワーク・編集もスピーディーにつなげることを意識しました。カラーコレクション、音楽も時代ごとにまったく違うものに変え、対比的な構造になるように心がけました」

 本作は最後に「答え」が出される作品ではない。しかし、ランスキーの生き様、彼に触れて変化していったデヴィッドの姿を通して、黒と白で割り切れない人間の灰色の部分が見えてくるものとなっている。

「『1人のテロリストも誰かにとってのヒーロー』という言葉がありますが、この世界は悪人と善人だけに分けられるほど単純なものではありません。ランスキーも「伝説のマフィア王」と語られていますが、彼は誰よりも善と悪の境目を歩いてきた人物なんだと私は思います。本作を観た方ひとりひとりが、自由な形で彼の生き様を受け取ることができるように仕上げました。彼のような灰色の世界の人間を知ることで、回りの人、自分自身についての新たな一面を気づくことにつながるかもしれません」

■公開情報
『ギャング・オブ・アメリカ』
新宿バルト9ほか全国公開中
監督・脚本:エタン・ロッカウェイ
出演:ハーヴェイ・カイテル、サム・ワーシントン、ジョン・マガロ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2021年/アメリカ映画/英語/119分/シネマスコープ/字幕:草刈かおり/原題:Lansky/R15+
(c)2021 MLI HOLDINGS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:gang-of-america.com

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