『ドライブ・マイ・カー』家福のメソッドを紐解く 変革していく演劇という行為

『ドライブ・マイ・カー』家福メソッドを読む

 演劇は己と向き合い、他者と調和し、変革していく行為である。妻を失い、自閉した家福の心を開かせるのもまたメソッドだ。劇場への行き帰りの車中、音が吹き込んだカセットテープに合わせてチェーホフを諳んじる時だけ観客は彼の心の内を知ることができる。赤いサーブ900という、今では物珍しい家福の愛車は彼の手足である以上に心を反響させる小宇宙なのだ。そんな彼のペルソナとも言えるサーブ900のハンドルを、みさき(三浦透子)というドライバーが握る。ゆっくりと、感情を排して語る彼女はまるで家福の影法師であり、家福のメソッドを実践するかのような彼女のドライブによって、彼は喪失の痛みと向き合っていくこととなる。

 果たして家福のメソッドはどこから生まれたのだろうか? 演劇には「口立て」(くちだて)という手法がある。台本を用意せず、稽古場で演出家(作家)が伝えるセリフを役者が覚え、作品を構築していく方法だ。家福のメソッドはゆっくりと、感情を排して物語る音の口立てから生まれたものであり、『ワーニャ伯父さん』を通じて「それでも生きていこう」と謳うこの再生の物語は、彼女の愛から導き出されたのである。

■公開情報
『ドライブ・マイ・カー』
公開中
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生
原作:村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
公式サイト:dmc.bitters.co.jp

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