『恋せぬふたり』重なった咲子とカズの宣言 必要なのは「そういう人がいる」を知ること

『恋せぬふたり』重なった咲子とカズの宣言

「あなたの普通を押し付けないでください」

 よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)第4話。アロマンティック・アセクシュアルな咲子(岸井ゆきの)と羽(高橋一生)の静かな“家族(仮)”の暮らしに、嵐のような存在が入ってくる。

 咲子を「俺の女」「ギリ付き合っている」と主張するカズ(濱正悟)が、自分のせいで怪我をした羽の介護を理由に、一緒に住むと言い出したのだ。もちろんカズの本音は、咲子への恋心を諦めきれない想いから。恋愛を抜きに家族を築こうとするふたりを理解できず、「納得したい」という気持ちもあっての強引な同居生活のスタートだった。

 思わぬ形で始まった奇妙な3人暮らし。咲子がいつもの朝食風景を話すだけで「カップルみがエグい」と早速カズの恋愛警報が鳴り響く。また今後、緊急事態があったときのために咲子を連絡先として職場に伝えてもいいかと許可を取る羽とのやりとりに「カップル通りこして妻みがエグい」「聞きようによってはプロポーズだろ」と、あれもこれも恋愛に結びつけるカズに、ふたりはげんなりだ。

 「聞きようによっては」とカズ自身が言うように、そう受け取っているのは他ならぬカズだというのに、そんな自分の思い込みに気づくことができない。だが、そんなカズに対して羽は至って冷静に向き合っていく。最初に響いたのは、カズが「男同士の話」として羽に性的な質問をぶつけたときのことだった。

 「わかりたい気持ちとぶしつけな質問は違います」と羽にきっぱりと言われ、カズは「あ、いや、なるほどなって。確かにそうっすね。すみませんでした」と自分の言動を振り返って謝罪する。羽のブレない姿勢が、何を不快に感じて、どこまで入り込んでほしくないのかを、カズにも明確に示すことになったのだろう。

 カズも根っから悪い人ではないのだ。むしろ「理解したい」と願う姿は“いい人”といえる。だが、いい人だからといって人を傷つけないわけではないのが、人間の複雑なところだ。咲子だって、ふたりの関係性を伝えるつもりが、気づかぬうちに羽のセクシュアリティについてアウティング(相手の了承を得ずに第三者に相手の話すこと)してしまっていたのだから。

 そうした気づきを羽は一つずつ静かに伝えていく。感情的に言い争うこともせず、察してほしいとも人に委ねず、自分の思うことを、相手にしてほしいことを一つずつ……。そして、こうしたやりとりは、羽自身にも小さな変化を起こす。まずは、カズをかばう形で怪我をしたのも、ひとりで暮らしていたころには考えられない展開だった。自分でも驚き、まるで映画のようだと記憶喪失を装う冗談まで出てしまうほど。

 また、咲子を元気づけようと、咲子とカズが応援してきたアイドル・サニーサイドアップのライブ映像を、流れで一緒に見て戸惑いながらも少しだけ微笑むシーンも印象的だった。単なる住まいを共にしている同居人なだけではなく、家族の“好き”を理解して微笑ましく思う気持ちが芽生えているように思えた。

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