平手友梨奈が“人馬一体”を体現 『風の向こうへ駆け抜けろ』が本当に描きたかったこと

『風の向こうへ駆け抜けろ』爽やかなラスト

 平手友梨奈が主演を務めるドラマ『風の向こうへ駆け抜けろ』(NHK総合)の後編が12月25日に放送された。

 振り返りになるが、前編で描かれたのは、女性騎手・芦原瑞穂(平手友梨奈)の挫折と奮起の物語。たった一人の女子として競馬学校を卒業し、中央競馬の騎手となった瑞穂は、1勝もできずに地方競馬へ移籍。やって来た鈴田競馬場の緑川厩舎には、調教師で元G1ジョッキーだった緑川(中村蒼)、失声症で声が出せない厩務員の木崎(板垣李光人)、女人禁制の伝統をいまだ重んじる厩務員のカニ爺(大地康雄)と瑞穂の言う「変な人」しかいなかったのだ。

 後編では、緑川厩舎が新たに迎え入れる暴れ馬・フィッシュアイズとともに地方の所属馬でも挑戦することができる中央競馬会のクラシックレース・桜花賞に狙いを定め挑んでいく。『風の向こうへ駆け抜けろ』は1回の放送が73分で構成されているが、後編はラストで瑞穂が再び中央競馬へと復帰し、桜花賞トライアル、G1レースへと駆け上がっていくシーンがかなりあっという間だったのが印象的であった。瑞穂が桜花賞を制覇し、G1で惨敗する展開は、『スラムダンク』でいう山王戦までがクライマックスで、続く三回戦の愛和学院にうそのようにボロ負けするあっけない結末だったというのにもどこか似ている。

 ただ、筆者が受け取ったのはネガティブなものではなく好意的なイメージだ。桜花賞のシーンに流れていたのはどこか穏やかな空気感。張り詰めた空気の中でのドラマティックな演出にしなかったのは、この作品で本当に描きたかったのはそこに至るまでの瑞穂たちの奮闘記なのだと思えた。

 緑川厩舎に流れ着いた人々はそれぞれがトラウマを抱えている。まず、前後編に強く通底しているのは、女性に対する偏見。そのことが生々しい描写で描かれていた前編に続き、後編においても元馬主である月芝(池内博之)の緑川に対する「君は彼女と寝たのか?」という言葉を筆頭に「女だから」という偏見は幾度も出てくる。瑞穂自身もフィッシュアイズと一緒に勝利を重ねていく中で再びアイドル的な人気が出ていくことに葛藤し、「私が女じゃなかったらここまで騒がれるだろうか?」「私はまだそれほどの騎手じゃない。私が女じゃなかったら、もっと実力だけを見てもらえるのだろうか。どこまでいけば女性騎手の『女性』は取れるのだろう? 私は何者だ?」といった内に秘めた思いがモノローグとして明かされもする。

 そんな瑞穂を一人の騎手として認めていくのが、厩舎にやって来た当初は彼女に塩を撒いていたカニ爺だ。海辺でフィッシュアイズに乗る瑞穂を、カニ爺が初めて名前で呼ぶシーンはその象徴的場面。「馬は人の心を頼りに動く。瑞穂がフィッシュを……テキ(緑川)やわしらを動かしてきたんじゃ。それだけは自信を持て」とカニ爺は桜花賞を前にした瑞穂の背中を押す。レースの前日に調整ルームで再会する、同世代の佐々本(奥野壮)もまた、かつては瑞穂にキツく当たっていたが、「ライバル」として温かく迎え入れることとなる。そこには「バラの騎士」として持て囃してくる男性騎手とは違った、一人の騎手としてのリスペクトが見える。

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