『ブルーピリオド』で重要な役割を担う吉田玲子 アニメ演出家も絶賛するその作家性と技術
中高生の青春を描いたアニメーション作品のなかで、『ブルーピリオド』が抜きん出ているように感じられる大きな要因は、吉田脚本のレベルの高さはもちろん、それ以上に、その作家性と題材とがガッチリと噛み合った結果というところだろう。
とくに注目したいのは、中山氏が語るように、作品によって“人間を描く”という強い意志が、吉田脚本に備わっているという点である。以前、私が映画において「人間が描けている」、または「描けていない」ことを問題にしたとき、SNSで少なからず反発があったことを、印象深く覚えている。「人間を描く」という表現自体が、現在では陳腐なものいいになっているというのだ。
日本の名脚本家、向田邦子や山田太一、倉本聰の手がけたドラマ群における物語づくりは、“人間を描く”ことを中心に据えていることが明確に伝わってくるし、日常のありふれた情景を描くにしろ、その底流に人間の暗部や激情が隠されていることを意識せざるを得ない、“油断のならなさ”に満ちている。そして少なくとも、そのこと自体が陳腐なものだと指摘されることは、ほとんどなかったはずだ。
もちろん、“人間を描く”ことを、現在の日本の脚本家たちが軽視しているとは思わない。しかし、そもそも“人間を描く”ということは、脚本家の一つの到達点といえるほど困難なものではなかっただろうか。それを成し遂げるためには、強く明確な意志と、卓越した技術が必要になるはずである。もしも、過去に比べて、いまの脚本家たちが“人間を描く”ことについて、少しでも熱を失っているのならば、そのこと自体が、吉田玲子という脚本家の存在を、アニメーションの分野で高い位置に押し上げているとも言えないだろうか。
『ブルーピリオド』は、一人の男子高校生が、初めて自分が選んだ人生の入り口に立ち、これから次々とやってくるだろう厳しい試練に、一つひとつ向き合いながら、本物の表現者への道を一歩一歩踏みしめていく物語だ。それは、漫画家、アニメーター、脚本家などにも通底する話であり、吉田玲子もまた、その見果てぬ道の途上にいるはずである。だから、そこには吉田自身の実感や人生をも投影されていることになる。本シリーズは、そんな表現への底知れぬ奥深さを垣間見ることができる、稀有な作品でもあるのだ。
現在、吉田玲子脚本による『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』が公開中。劇場作品『フラ・フラダンス』が12月に公開。TVアニメ『平家物語』、『であいもん』が2022年の放送を控えている。
■放送情報
『ブルーピリオド』
MBS・TBS系全国28局ネットにて、毎週金曜25:25~放送
BS朝日にて、毎週日曜23:00~放送
AT-Xにて、毎週木曜21:00~放送
Netflixにて先行独占配信
声の出演:峯田大夢、花守ゆみり、山下大輝、河西健吾、宮本侑芽、青耶木まゆ、平野文、福西勝也、神尾晋一郎、橘龍丸ほか
原作:山口つばさ 『ブルーピリオド』(講談社『アフタヌーン』連載)
総監督:舛成孝二
監督:浅野勝也
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:下谷智之
美術監督:仲村謙、金子雄司
美術設定:緒川マミオ、中島美佳
撮影監督:服部安
色彩設計:歌川律子
3DCG監督:大見有正
(c)山口つばさ・講談社/ブルーピリオド製作委員会
公式サイト:https://blue-period.jp/