『ブルーピリオド』『さんかく窓』『王様ランキング』 秋アニメは人気原作ものが熱い!

 10月より続々とスタートしている2021年秋アニメ。ドラマよりもはるかに多数の作品が毎クール放送されているが、今回のラインナップでは“人気原作コミック”のアニメ化が目立っている。本稿ではその中からいくつか作品をピックアップし、注目ポイントをご紹介したい。

『ブルーピリオド』

『ブルーピリオド』(c)山口つばさ・講談社/ブルーピリオド製作委員会

 2017年より講談社『月刊アフタヌーン』にて連載がスタートし、累計発行部数440万部を突破。書店員をはじめ各界の漫画好きがイチオシの作品を選出する「マンガ大賞2020」で大賞を獲得、さらには「第44回講談社漫画賞」総合部門も受賞した山口つばさの『ブルーピリオド』がついにアニメ化を果たした。10月1日にスタートし、現在第2話まで放送されている。

 主人公の矢口八虎をはじめ、美大を目指して突き進む高校生たちの姿を描いた本作。今最もアツい、“アート系スポ根漫画”と話題になっているが、たしかに文化系の若者に焦点を当てた作品は意外にも少ない。『ハイキュー!!』や『黒子のバスケ』、『テニスの王子様』などスポーツを題材とした青春群像劇は数多く存在するものの、文化系は汗水垂らす彼らとは対局のイメージを持たれていたからだ。

 そもそも、美術の世界は謎に包まれている。絵画を楽しむには教養や磨かれた感性が必要とされそうで、足が遠ざかってしまう。そんな敷居の高さを拭ってくれるのが、知識や経験ゼロの状態から最難関の東京藝術大学を目指す主人公の存在だ。

 仲間と酒やタバコを嗜みながら朝まで遊び、それでも勉学に励み常に成績上位の八虎。世渡り上手で充実しているように見えるが、どこか達観している本人は空虚な日常を送っている。そんな彼が出会うのは、美術部の部長が描いた一枚の絵。2人の天使を描いたこの絵が八虎の人生を変えるのだが、ポイントは“色”だ。天使の肌をより綺麗に表現するため、部長は緑色の絵の具を使っていた。そこで「あなたが青く見えるならりんごもうさぎの体も青くていいんだよ」という言葉に心動かされ、八虎は以前から“青い”と感じていた早朝の渋谷を美術の課題で描く。

 この度のアニメ化でモノクロだった絵に鮮やかな色彩が加わり、より彼らが見た景色を身近に感じることができた。美術は文字じゃない言語。八虎が絵を通して言葉だけでは不十分な他者との“心の交流”を深め、次第に私たちの美術に対するハードルも下がっていく。そこで見るのは成長と挫折を繰り返しながら、厳しい世界へ身を投じていく若者の燃えるような熱さだ。彼らの姿を、絵の色や質感にも注目しながら見守ってほしい。

『さんかく窓の外側は夜』

『さんかく窓の外側は夜』(c)ヤマシタトモコリブレ・さんかく窓プロジェクト

 10月3日より放送開始となったのは、今年1月に公開された実写映画も記憶に新しい『さんかく窓の外側は夜』だ。本作は『HER』や『違国日記』など、発表する作品がこぞって宝島社「このマンガがすごい!」にランクインしているヤマシタトモコが描くホラーミステリー。霊が“視える”書店員・三角康介と、霊を“祓える”除霊師・冷川理人がバディを組み、未解決事件に挑む。

 幽霊といえば、おどろおどろしい姿を思い浮かべるかもしれないが、ヤマシタが描く霊には妙なリアリティがあるのだ。三角の目を通して部屋の片隅に佇む霊がぼんやり浮かび、正気を失った瞳に見つめられる。ゾッと身の毛がよだち、実は日常にこうした存在があちらこちらに潜んでいるかのような感覚に襲われるのが本作の怖いところ。冷川は後ろから三角の魂のような“核心”に触れ、霊を掴んでぶん投げるのだが、この一見まわりくどい除霊方法が現実味を帯びている。

 そしてまた核心に触れられた三角には気絶するほどの快楽を伴うため、妙に艶っぽいシーンに見えるのも一つの特徴。実写映画版では2人が連続殺人事件の鍵を握るヒウラエリカに迫っていくミステリー色が強かったが、 冷川役・羽多野渉や三角役・島崎信長の声や息遣いも相まってより原作の艶めかしさが強調されていたように思う。

『古見さんは、コミュ症です。』

『古見さんは、コミュ症です。』(c)オダトモヒト・小学館/私立伊旦高校

 また実写化からのアニメ放送といえば、10月6日よりスタートした『古見さんは、コミュ症です。』も見逃せない。本作は小学館『週刊少年サンデー』で連載されているオダトモヒト原作のコメディで、NHK総合「よるドラ」枠で絶賛放送中のドラマはNEWSの増田貴久が高校生役を演じるということで話題となった。

 物語は平凡な男の子・只野仁人が進学校の私立伊旦高校に入学する場面から始まる。波風の立たない高校生活を送ろうと決意する只野だったが、彼の隣の席になったのは学校一の美女・古見硝子だ。しかし彼女はタイトル通り、人付き合いが大の苦手。それでも原作の冒頭でも触れられているように人と係りを持ちたくないわけではなく、本当は友達が欲しいと思っている。

 そんな彼女の友人第一号となり、彼女が描く青春を謳歌できるよう協力していくのが只野。素朴だけど、実はなんでもそつなくこなせて気配りができる彼と共に少しずつクラスに馴染んでいく古見さんの愛らしさがコミカルに描かれる。ドラマでは増田をはじめ、古見さん役の池田エライザや片居誠役の溝端淳平など、20代以上の俳優たちが演じることで、コメディ要素も味わいながら大人も他者との係りについて改めて考えさせられる作品となった。一方アニメでは、実写にすると大げさに感じてしまうような登場人物のリアクションが笑いを生み出している。

 こうした実写とアニメがほぼ同時期に放送される作品では、アニメーションならではの演出や、俳優が演じることで新たに発見できるキャラクターの魅力など、二つを見比べてみるのも一つの楽しみだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる