実写化もされた『古見さん』『さんかく窓』 アニメならではの映像表現でどう魅せるか
『古見さんは、コミュ症です。』(NHK総合)、『さんかく窓の外側は夜』(TOKYO MXほか)が10月から放送される。
『古見さんは、コミュ症です。』は『週刊少年サンデー』にて2016年から連載がスタートし、2021年8月現在で単行本22巻を発刊。コミックスの累計発行部数は550万部を突破している人気作品で、NHKでは本作のテレビドラマもスタートしている。一方で『さんかく窓の外側は夜』は『月刊MAGAZINE BE×BOY』にて2021年1月号まで約7年強に渡って連載。こちらもまた2021年1月公開の映画『さんかく窓の外側は夜』として実写化された作品だ。本稿では、実写化もされた2作を取り上げ、アニメ版の注目ポイントを紹介していきたい。
誰もが振り向く絶世の美少女の古見硝子(こみしょうこ)と、平々凡々なクラスの男子である只野仁人(ただのひとひと)が中心となった学園系シチュエーションコメディ作品だ。
本作における“コミュ症”とはコミュニケーションが苦手な症状の略称のことだ。本作は、人と対峙すると声をあげることもままならない“コミュ症”な古見さんと周囲のクラスメイトらが、さまざまなイベントやハプニングを通して心を通わせ、学校生活が豊かになっていく姿を描いている。
フリガナを振らせてもらったが、本作には他にも長名なじみ(おさななじみ)、上理卑美子(あがりひみこ)、山井恋(やまいれん)なども登場。名前からも何となくどんなキャラか想像しやすいように、出自、性格、身体的特徴などをとっかかりにしてコミカルなタッチで表現している。このように「一つの特徴、特色を思い切って描く」ことでキャラクターの自律性を保たれている。しかもどの登場人物もキャラが強調されていることもあってコメディとして面白い。
またキャラクターの心情変化も丁寧に描かれている作品でもある。前述した通り、本作で描かれる“コミュ症”とは、あくまで“コミュニケーションを苦手としている”ということ。人との関わりを持ちたくないわけではない(その点は作品内で幾度も指摘されている)。キャラクターたちは、それまで自分のことだけで精一杯だったものの、互いに関わり合うことで自分ではなく友人となる相手の立場になって行動しようとするエンパシーを働かせる。共感しあうのでなく、互いを理解しあっていくシナリオをいくつも描いていくことで、人物変化もより際立って見えてくる。
総監督は、劇場版アニメ『海獣の子供』や『漁港の肉子ちゃん』のほか『ドラえもん』の劇場版も手がけてきた渡辺歩、アニメーション制作には『ポケットモンスター』、『妖怪ウォッチ』、『イナズマイレブン』といったキッズ向け作品を多数制作してきたオー・エル・エムが担当。実は今作、日本のキッズ向け作品で大きな活躍をした者同士のタッグ作品になっているのだ。 さらに原作の空気感をうまく脚本に落とし込む赤尾でこがシリーズ構成として参加。渡辺総監督とは『恋は雨上がりのように』や『謎の彼女X』を制作していたことを踏まえれば、原作のムード・作品観を壊すことなくストーリーを脚本や絵コンテにしてくれそうだ。
アニメ絵を見てみると、等身が若干短くなり、丸っこさを意識したフォルムでアニメっぽさが感じさせるタッチとなっている。このキャラクターデザインを描いたのは中嶋敦子だ。
中嶋は『らんま1/2』、『逮捕しちゃうぞ』、『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』、『プリンセス・プリンセス』、アニメ版『薄桜鬼』(全3期)などでキャラクターデザインを務めてきた名手。瞳や顔の輪郭線、彩色にこだわり、中性的かつ甘美なムードを漂わせる独特なタッチを思い出せば、今作のタッチはそういった路線とは全く別。本当に同じ人が描いたのか? と疑いたくなるほどだ。
90年代から活躍する充実のスタッフ陣、いくつかの新しいミッションを抱えながら、本作がどのように描かれていくのかは非常に楽しみだ。