林遣都が“犬目線での演技”を披露? 本格派“犬バカ映画”『犬部!』に覚えた違和感の正体

『犬部!』に感じる愛おしい違和感

 林といえば、朝ドラ『スカーレット』(2019年〜2020年/NHK総合)にてヒロインの幼馴染みを演じていたことも記憶に新しい。朝ドラとは、ほかのさまざまなドラマ以上に、視聴者の幅が広いものだ。ここで俳優たちは、“あらゆる世代に伝わる演技”を実践しなければならないものだと筆者は考えている。これはある種、“分かりやすい演技”とも言い換えられるもの。観る人によっては「オーバーアクト」だと感じることもあるだろう。颯太役の演技は、どうもこれに近いもののように思えるのだ。共演者の中川や大原と比較してみて、演じるキャラクターの性質の違いは当然あるものの、それでも林の演技は少し(あるいはかなり)浮いているように感じる。これが違和感の理由だ。そこでハッと気がつかされたのが、“犬バカ”の颯太を演じる林は、もしや“犬目線での演技”をしているのではないか? ということだ。

 ときに颯太は、カリカリ(ドッグフード)を食する男である。だからといって犬人間になるわけではもちろんないし、そもそも本作はそんな映画ではない。そして颯太は、犬のことを理解するために積極的にカリカリを食しているわけでもない。犬たちと過ごす時間があまりにも長いため、小腹が空くと、ついうっかり口に入れてしまうのだ。このことを角度を変えて捉えてみたい。そうすると、颯太は人間を相手とする以上に、犬とのコミュニケーションを多く取っている人物だということが分かるだろう。犬好きの人々が犬と接する際の態度を思い返していただきたい。道端だろうと、犬を見かければ人目も気にせずに豹変。普段からは考えられないような高い声を出して話しかけたり、破顔して別人のようになったり。本作において林は冒頭から、セリフの発音も表情も仕草もオーバー気味だ。これは彼が颯太という、“普段から犬目線の人間”を演じている証なのだと思う。颯太の一挙一動が、「犬狂いの人が犬に接するときのアレだ……」と気がつくと、すべて腑に落ちるのだ。

 本作における林のことを、“林遣都=犬”というと言い過ぎかもしれないが、“林遣都≒犬”とはいえると思う。犬を愛でている人の姿というのは良いものだ。その感情は伝播する。そしてその愛情に応える犬との関係性を目にすると、こちらまで破顔してしまう。これと同じことが、本作と観客の関係にはあるのだ。冒頭からしばらく感じていた本作に対する違和感は、やがて心地の良いものとなり、いつしか愛おしさすら覚える。そうして私たちも“犬バカ”の一員となるのだ。そうそう出会えることのない、本格派「犬(バカ)映画」である。

■公開情報
『犬部!』
全国公開中
出演者:林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大、田辺桃子、安藤玉恵、しゅはまはるみ、坂東龍汰、田中麗奈、酒向 芳、螢雪次朗、岩松了
監督:篠原哲雄
脚本:山田あかね
原案:片野ゆか『北里大学獣医学部 犬部!』(ポプラ社刊)
主題歌:Novelbright「ライフスコール」(UNIVERSAL SIGMA / ZEST)
配給:KADOKAWA
(c)2021『犬部!』製作委員会
公式サイト:inubu-movie.jp

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