現代の目で観るからこその切迫感 サイコスリラー『すべてが変わった日』が映す異常な世界

『すべてが変わった日』が映し出す異常な世界

 自分の愛する人が苦しめられる……それは人間にとって、最も耐え難い事態ではないだろうか。映画『すべてが変わった日』は、あろうことか、かわいい孫が暴力的で差別的な一家に引き取られるという、異常な状況が描かれるサイコスリラー作品だ。

 1963年アメリカのノースダコタ州とモンタナ州が、本作の舞台だ。この一帯は「グレートプレーンズ」と呼ばれる、大平原が広がる地方。人口は比較的少なく、ネイティブ・アメリカンの文化やカウボーイなど、“西部劇”で描かれたアメリカの古い雰囲気が息づいている。そこで、孫を奪われることになる夫婦を演じるのは、『マン・オブ・スティール』(2013年)でも、スーパーマンの育ての両親として夫婦役を演じていた、名優にしてスター俳優の、ダイアン・レインとケヴィン・コスナーのコンビ。この夫婦は、愛する孫の奪還のために異常な世界に足を踏み入れることとなる。

 ケヴィン・コスナーが演じているジョージ・ブラックリッジは、若い頃に保安官を務めた、牧場を営む男だ。ダイアン・レイン演じる妻マーガレットとの間に生まれた息子は成人し、二人はジミーと名付けられた孫にも恵まれていた。雄大な大自然に抱かれて、家族の平穏な日々はこれからも続いていくと思われたが、ある日、息子が突然の落馬事故に遭い、帰らぬ人となる。その悲劇の日から、すべては変わってしまう。

 未亡人となった義理の娘は、その3年後に新しいパートナーであるドニー・ウィーボーイという男性と再婚することになる。別の家庭に移ることになってしまったが、ジョージとマーガレットにとって、ジミーが実の孫であることには変わりはない。息子の死を経験し、孫と離れて暮らすことになった二人の生活は、暗く打ち沈んだものとなる。だが、そんな心境を噛み締めている間もなく、さらなる衝撃が二人を襲う。義理の娘が新たな結婚相手に暴力を振るわれているところを、マーガレットが偶然目撃してしまうのだ。

 一緒にいた幼いジミーの怯え方も尋常ではなく、ドニーが二人を日常的に虐待しているのは明白だった。義理の娘ローナもまた新しい夫に怯えていて、孫を暴力から守ることはできそうにない。ジョージとマーガレットは相談の末に、二人が移り住んだウィーボーイの実家を訪ね、ローナを説得することで孫ジミーを助け出す計画を立てることになる。

 自分の孫が、よく知らない男に虐待される……。ジョージやマーガレットでなくとも、許せないと思うのは当たり前だろう。フィクションだとは分かっていても、ここまでの展開だけで、はらわたが煮え繰り返りそうな感覚を覚えてしまうが、事態はさらに深刻化していく。孫たちが引き取られたウィーボーイ家のある町に到着したジョージとマーガレットは、さらに異様な状況に直面するのである。

 ウィーボーイ家では、すでにジョージたちが実家に向かっていることを察知していた。なぜなら、その道中にも関係者が存在しているからだ。ウィーボーイは、この田舎町では強い権力を振るう一家であり、一家の男たちは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の“ウォー・ボーイズ”のように、家長である一人の女性の命令に従っているのだ。

 それが、レスリー・マンヴィル(『ファントム・スレッド』)が、見事に憎たらしく演じているブランチ・ウィーボーイである。彼女は、ウィーボーイの男たちとともにジョージたちを形式上もてなし、食事を振る舞うが、信じ難いほどに失礼な態度をとり、差別的な罵詈雑言を浴びせかけてくる。本人の目の前で侮辱するだけでもひどいが、そこに人種差別や女性差別の思想をすかさず織り交ぜてくるのだ。まともな常識を持った善良な市民ならば、すぐさま席を立って出て行きたくなるところだが、孫を人質に取られ、多勢に無勢の状況では難しく、彼女や男たちの暴言を黙って聞くしかない。この緊迫感漂う狂った状況が描かれるところが、本作がサイコスリラーと呼ばれる理由だ。

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