“ジャッキー・チェン”というジャンルを築くまで 最新作『プロジェクトV』までの歩み

「恐竜さえも蘇らせたハリウッドの最後の《不可能》とは、何か?―その答えは、ここにある」

 これは、1995年に公開されたジャッキー・チェン主演の映画『レッド・ブロンクス』の日本公開時のキャッチコピーだ。

 この一文には、ジャッキー・チェンが成し遂げたことが的確に詰まっている。「恐竜を蘇らせる」とはスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』のことだ。そして、「ハリウッドの不可能」とは、肉体の限界に挑む生身の大アクションのことである。

 スピルバーグがどれだけ名匠でも、どれだけ巨額の予算をかけたCGを駆使してもたどり着けないものが、ジャッキー・チェンの映画にはあった。そんなジャッキーが映画界に残した足跡とはなんだったのか、考えてみたい。

ジャッキー・チェン主演『プロジェクトV』日本語吹き替え版ダイジェスト映像

肉体1つでハリウッドの大資本に対抗した男

 ジャッキー・チェンのキャリアはスタントマンから始まっている。ブルース・リーの映画などでスタントマンを務め、ブルース・リー亡きあとは、その後継者と目されたこともあった。

 だが、ジャッキーは自身のオリジナリティを追求。たどり着いた答えは、コミカルカンフーだった。シリアスな調子の多かったカンフー映画の中で、ジャッキーは70年代後半から独自の路線を掴み、スターダムに上り詰める。

 80年代に入ると、大規模なアクション映画を作りだし、その中で見出したのが危険なスタントにも自ら挑むことだ。自他ともに認める代表作『プロジェクトA』の時計台からの落下シーンはあまりにも有名。『サンダーアーム/龍兄虎弟』撮影時には頭蓋骨骨折の大怪我を負ったこともある。

 80年代から90年代前半にかけて、日本の映画市場はハリウッドに席巻されていた。日本映画は元気のない時代で、アニメも今ほど集客できなかった時代に、ジャッキーの映画はハリウッド映画に混じって興行収入上位に食い込んでくることもあった。あの時のジャッキーは、ハリウッドの大資本に、肉体一つで対抗できる人だったのだ。

ジャッキー・チェンはスターであると同時にジャンルである

 ジャッキー・チェンの映画と聞けば、果敢なスタントと、小道具を駆使したコミカルかつ華麗なカンフーバトル満載のアクション映画とすぐにイメージできる。その意味で、ジャッキー・チェンはアクション映画スターであると同時に、一つのジャンルと言ってもいい存在だ。

 現在は還暦を過ぎ、自身の肉体を酷使したアクションをこなすには限界があるのは事実だ。だが、ジャッキー映画のテイストそのものは今も息づいている。最新作『プロジェクトV』では、冒頭の格闘シーンで、唐辛子を潰して相手の目にこすりつけるというアイデアが採用されているが、いかにもジャッキー映画らしいアイデアだ。

 このシーンを演じたのがジャッキー本人ではなく、若手スターのアレンだということが興味深い。本作でジャッキーが演じるのは、ヴァンガードを呼ばれる護衛部隊の責任者だ。若手を従え組織を束ねるその姿は、後進の育成に力を注ぐ近年のジャッキーの姿とも重なる。自身の映画で積み上げてきたエッセンスを若手スターにやらせるその姿勢は、ジャッキーが生み出した「ジャッキー映画」というジャンルそのものを、次世代に継承させようということかもしれない。

 しかし、本作においてもジャッキーは、若手にだけ身体を張らせているわけではなく、手慣れた格闘シーンを披露し、水上ジェット機を乗りこなしてみせる。本作の役柄も、ただ、オフィスに座って安全なところから指示を出すのではなく、若い連中とともに現場の最前線に出ていく上司なのが、ジャッキーらしい。2017年公開の『ポリス・ストーリー/REBORN』においてもアクションを自らこなし、エリカ・シアホウやショウ・ルオなどの若手スターらの良き手本となっている。

『プロジェクトV』特典映像の一部を公開

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