ジャッキー・チェンはまだまだ健在! 『プロジェクトV』から溢れ出るサービス精神

『プロジェクトV』から溢れ出るサービス精神

 ジャッキー・チェンは70年代から香港のカンフーアクション映画で数々の主演を務め、やがてアメリカ映画にも進出してハリウッドスターになったアジア人俳優だが、そんなジャッキーと長年組んでヒット作を放っている監督がいる。それがスタンリー・トンだ。

 ジャッキー自身が監督、脚本、武術指導を兼任した主演作『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)は、彼のキャリアの中でも代表作の1本に数えられる有名作だが、その人気シリーズの3作目『ポリス・ストーリー3』(1992年)で初めてジャッキーと組んだスタンリー・トン監督は、ジャッキーの米国進出に大きく貢献し、彼の国際的な地位を確立させた『レッド・ブロンクス』(1995年)、さらに『ポリス・ストーリー』シリーズの4作目『ファイナル・プロジェクト』(1996年)を次々と発表(なお、その後も好評のシリーズは設定を変えて『香港国際警察/NEW POLICE STORY』、『ポリス・ストーリー REBORN』など10作までユニバースを拡大)。香港、中国はもとより、アメリカでのジャッキー・チェン人気を不動のものにした人物である。

 スタンリー・トン監督は単にヒット作が多いというだけではなく、ジャッキーの監督・主演作『ライジング・ドラゴン』(2012年)にも共同脚本と製作総指揮の立場で携わっており、ジャッキーからの信頼が厚い人物と言われている。こうした実績からも2人のコンビ作が多いのは、頷けようというものだ。

 さてスタンリー・トン監督とジャッキー・チェンコンビの最新作『プロジェクトV』(2020年)だが、邦題のロゴの下に小さく金色の文字でVANGUARDとある。このヴァンガードとは、本作に登場する民間の国際保安警備会社の名称で、退役軍人などで構成された精鋭メンバーが、世界各国の要人の警護を務める組織。ジャッキー演じるトン・ウンテンは、ヴァンガードの創立者にして最高司令官だ。この映画の撮影当時65歳だったジャッキーはスーツに身を包み、若手メンバーを束ねて指令を出す責任者の役柄になっている。

 しかし組織の最高責任者だからといって、彼ほどのレジェンドが部屋の中から指示を出すだけのキャラクターで終わるわけがない。ヴァンガードの若手たちと一緒に現場に出て行き、時には命がけのアクションも披露する。アフリカロケでは目にもとまらぬ俊敏さで数人の敵をまとめて倒すほか、走り出した車のボンネットに飛び乗り、そのまま右側ドアから助手席に乗り込むという難易度の高い動作を1カットで披露している。基本的にシリアスムードの作品ではあるが、敵とのバトルの最中に時折見せるコミカルな台詞や表情は、往年のカンフーアクション映画の頃のユーモアを感じさせて心地良い。

 これまで多くの映画で撮影中の脱臼、骨折といった大怪我を経験しながら、それでも果敢に身体を張ったアクション映画の前線に立ってきたジャッキーだが、『ライジング・ドラゴン』の時に本格的アクションからの引退を仄めかした。年齢を考えれば、脂が乗っていた80年代~90年代のような肉体を酷使する映画が厳しいのはもっともである。また後進の若手の育成に注力したい意向もあったはずだ。

 事実、『プロジェクトV』ではヴァンガードのメンバーとして中国の新世代俳優ヤン・ヤンと、モデル出身の美女ムチミヤが、スクリーン狭しと暴れまわって数々の見せ場を作っている。ムチミヤはスタンリー・トン監督とジャッキーコンビの前作『カンフー・ヨガ』(2017年)から引き続いての出演。ジャッキーは現場で彼らを率いるヴァンガードのリーダーを演じつつ、次世代のアクション俳優を育てる役目も同時に果たしている。

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