宮台真司×荘子it『崩壊を加速させよ』対談 「社会という荒野を仲間と生きる」

宮台真司×荘子it『崩壊を加速させよ』対談

「最後に擁護できるのは美学的な生き方」

宮台:『崩壊を加速させよ』に戻れば、人間は総体としてクズすぎるから、最終解決などがあるはずがありません。クズは「言葉の自動機械・法の奴隷・損得マシン」を、クソ社会は「言外・法外・損得外の時空」を消去したフラットな社会を指すけど、人がクズ化し、社会がクソ化するのは、マクロ(全域的)には押し留めようがありません。これを「マックス・ウェーバーの絶望」と呼びます。

 でもミクロ(局所的)には違う。仲間だと思う人々、つまり家族や親友や恋人の範囲であれば、言葉や法や損得への「閉ざされ」の外へと「開かれ」を導けます。かつて僕と一緒に勉強していたのにQアノン的陰謀にはまったりウヨ豚になったりするケースが枚挙に暇がないけど、馬鹿だなと言って終了することもできるものの、仲間であり続けていれば何とかできただろうと思います。

 人間は上等じゃないので、後から後からクズが湧きます。例えば「全ての悲劇を誰かのせいにして自分を免罪したがる傾向ゆえに陰謀説が湧き出す」類の現象も永続する。だからこそ、陰謀説が出てくるメカニズムを多くの人が理解できる稀有な機会が「今」です。「与党もクズだけど野党も負けず劣らずクズだって言ってるうちは自分はもっとクズ」という構造が「今」は自覚しやすい。

『茜色に焼かれる』(c)2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

 だから、石井裕也監督の最新作『茜色に焼かれる』(2021年)も、クズにクズ扱いされたヤツが人をクズ扱いするという「クズ扱い連鎖」を描きます。日本の世の中は「ケツ舐め連鎖」と「クズ扱い連鎖」だらけで、マクロにはそれが終わる可能性はない。永久に終わらないと覚悟しないと、「社会という荒野を仲間と生きる」戦略に乗り出せない。だから崩壊が加速する必要があります。

 崩壊が加速して初めて、きちんと覚悟できるのです。覚悟できれば、「社会という荒野を仲間と生きる」ための工夫が各所で始まるでしょう。反対に、「ちゃんとした政治リーダーに任せればうまくいく」「ちゃんとした法や制度があればうまく回る」みたいなクソ観念がある限り、ミクロな動機付けが抑圧されます。だからアベやスガが首相であり続けることが一番いいというのが持論です(笑)。

荘子it:やっぱり宮台さんのこの『崩壊を加速させよ』も、ある意味の処方箋として、今のこの社会に対する物言いだと思うんです。しかし深く読んでいくと、宮台さんは「世界に開かれて。また社会に戻る」という運動まできちんとずっと書いてきたじゃないですか。だからそういう意味では、この本は看板に偽りありじゃないかと(笑)。理論的にはもうちょっと複雑なこと言ってるのにな、という気が勝手にしてしまいます。

宮台:なるほど。僕は宇宙にある多くの知的文明がたぶん同じ問題で滅びていくのだと思います。つまり最終解決でないものを最終解決だと思うことで滅びる訳です。とすれば、マクロには滅びは仕方ない。仕方なく間もなく滅びるのだとして、最後に擁護できるのはトーラーや福音書が指し示す美学的な生き方です。「人から見て愚鈍な生き方でも、これが自分の美学だ」というものです。

 「損得」の反対側にあるのが「美学」です。同じ意味で「法」の反対側にあるのが「掟」です。ジョルジョ・アガンベンの言い方では「剥き出しの生」より「尊厳ある生」です。「掟」と「美学」と「尊厳ある生」を擁護し、「法」と「損得」と「剥き出しの生」の外を生きること。そういう者同士が互いを「仲間」として擁護し合うこと。文明が墜落する中でそれが唯一の生き方です。そして、そうした生き方をする者たちの中から、初めてマトモな政治家が出て来ます。

 最後に言わせてください。荘子itさんのような人は、僕の経験では音楽から映像や小説へ、といろんなことに乗り出すケースが非常に多いです。現に、批評に乗り出しているし、どこかで「音楽だろうがなんだろうが、表現媒体は問わない」とおっしゃっておられたでしょう。荘子itさんが将来創作するだろう映画や小説に、めちゃめちゃ期待しています。ますます頑張ってほしいです。

荘子it:いや、これ以上ない光栄な言葉をいただきましたね。10代から読み続けた身として、夢のような時間でした。本当にありがとうございました。

宮台真司×荘子it 『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』刊行記念トークイベント

■書籍情報

『崩壊を加速させよ  「社会」が沈んで「世界」が浮上する』
著者:宮台真司
発売中
ISBN 978-4-909852-09-0 C0074
仕様:四六判/424ページ
定価:2,970円(本体2,700円+税)
出版社:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com/

■宮台真司
社会学者。映画批評家。東京都立大学教授。著作に『権力の予期理論』(勁草書房)、『14歳からの社会学』(世界文化社)、『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』(幻冬舎)など。Twitter

■荘子it
1993年生。2019年に1st Album『Dos City』で米LAのDeathbomb ArcからデビューしたHip HopクルーDos Monosを率い、全曲のトラックとラップを担当。民族音楽やフリージャズ、哲学やサブカルチャーまで奔放なサンプリングテクニックで現代のビートミュージックへ昇華したスタイルが特徴。様々なアーティストへの楽曲提供に加え、ドラマ、映画の劇伴音楽、エッセイや映画評執筆など、越境的に活動している。
2020年3~4月にかけてアメリカツアーを予定していたが、直前でコロナにより中止。その後、台湾のIT大臣オードリー・タンfeaturing曲等、精力的に楽曲をリリースし、7月24日に2nd Album 『Dos Siki』をリリースした。Twitter

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