『賢い医師生活』シーズン2第3話、転換点となる『刑務所のルールブック』からのカメオ出演

『賢い医師生活』S2第3話は転換点に

 7月1日より配信されている『賢い医師生活』シーズン2第3話は、医師と患者や友人・家族との対話が繰り返される、会話劇中心のエピソードだ。先週配信の第2話から引き続き、人間はすでに得た知識の範囲内でしか判断できず、いかに固定観念に囚われ生きているかが描かれる。それを踏まえると、シン・ウォンホ監督とイ・ウジョン(企画)のコンビによる『刑務所のルールブック』(Netflix)からのカメオ出演に大きな意味を見出すことができる。

 経済的に困難な局面にある患者を支援する“あしながおじさん”のプロジェクトを遂行するソンファ(チョン・ミド)は他病院からの依頼を受け、イクジュン(チョ・ジョンソク)に臓器移植専門医としての見解を尋ねる。非科学的根拠から自然分娩に固執する親子に、出産の目標を問いただすソッキョン(キム・デミョン)。一方、ジョンウォン(ユ・ヨンソク)とレジデントのギョウル(シン・ヒョンビン)の交際が病院内でバレそうになるが、好意的なパブリックイメージによって回避される。彼らとは対照的に、ジュンワン(チョン・ギョンホ)は遠距離恋愛が引き起こす負の連鎖に追い込まれている。

 第3話には、先入観や固定観念で決め付けられた事例が繰り返し出てくる。自然分娩への固執、ドナーの順番、個別診断ではなく基準で患者受入を判断する病院、知識・技術のあるレジデントよりも知人の教授の施術を選ぶ国会議員。財閥二世のイメージ、本人以外は“ライバル”と認識している学生時代の仲間、結婚生活で苦労したのに「1人より2人がいい」と言い切る母親……。映画やドラマでは受動的に他者の思いを知ることもできるが、実生活ではそうはいかない。社会にもそんな側面がある。私たちが見ているものは一方的な見解にすぎず、コミュニケーション不足と想像力の欠如が分断を生んでいる。

 シーズン1で、5人の医師はひとつずつ何かが欠けている“5無”と紹介されていた。社会性がないソッキョン、物欲がないジョンウォン、礼儀がないジュンワン、欠点がないソンファ、先入観・劣等感のないイクジュン。ここまでの15話分で彼らと時間を共にして来た視聴者は、他者の視点で一方的に与えられた情報を疑い始めている。誰よりも患者の立場に立って診療を行うソッキョンを何度も見てきた。温和で紳士的と見られているジョンウォンは、実は食べ物の恨みを根に持つタイプ。率直な物言いで誤解されがちだが、ジュンワンほど心根が優しく熱い医師はいない。何事もパーフェクトにこなす“鬼神”ソンファは、全て1人で抱え込み自己完結してしまうから慢性的に疲労している。先入観やコンプレックスがないとされるイクジュンは、すでにシーズン1第7話で変化を遂げている。ある患者と接することで「世の中のことや人のことを知った気になっていた」と反省し、不幸を憂いでいる時間がもったいないと自身を鼓舞した。

 『賢い医師生活』は主人公5人が働くユルジェ病院を客観視点で描き、彼らがあからさまに感情を爆発させることはないし、モノローグで心情を吐露することもない。主観が見えにくいから最初はとっつきにくいとされるが、ハマると隅から隅まで知りたくなる中毒性の高いドラマだ。視聴者は細切れに描写される会話と行動から人物像や関係性を推察し、言葉にならない表情や視線、音楽や衣装、美術などからもヒントを得ようと凝視する。まるで実生活の人間関係のように。

 5人の中で最もミステリアスなキャラクターが、脳神経外科医で5人の“精神的支柱”とされるソンファだ。シーズン1から引き続き、聞き役でアドバイスを与えることが多い彼女の本心は語られることがない。だがこのエピソードのソンファは、能動的に他者の見解を求める体勢にある。イクジュンの医師としての腕と知見に絶対的な信頼を置く彼女は、肝臓移植手術の可否を相談する。もっとも、ソンファがイクジュンだけにはお願いごとができるのはシーズン1第1話の登場シーンから連なるもので、彼女だけがそれに気づいていないわけだが。そして、お見合いを設定されそうになった患者の兄との対話で、人間関係についての発想の転換を促される。

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