深田晃司が『恋愛裁判』で獲得した普遍性と現代性 “魔法使い”であり続けるために

深田晃司が獲得した普遍性と現代性

 冷静な寛容さよりは、視野狭窄的な熱狂や偏愛が是とされる独特の世界。そこでは一線を越えるギリギリ手前まで感情や思い入れをいかに増幅させるかが人気を左右する鍵となる。何も知らない他人が入り込む隙がないほど濃密かつ親密な空間が誕生し、まるで魔法にかけられたような時間が流れる……。

 だが、深田晃司監督による『恋愛裁判』は、当然そのアイドル業界という特殊な空間をほんの少し俯瞰的に、周囲の日常と地続きの現実世界として捉える。むしろ思ったほど冷徹ではなく好意的な描写に思えるくらいだが、「現場」のファンから見ると印象はだいぶ異なるかもしれない。これがもしポール・ヴァーホーヴェン監督作であれば、『ショーガール』(1995年)ばりの誇張表現で熱狂をフィルムに焼きつけつつ、傍若無人に業界の暗部をえぐり倒したことだろう。

 本作は「恋愛禁止ルール」がまかり通る業界内で、現役アイドルとしてストイックに活動していた主人公・山岡真衣(齊藤京子)が、ある選択によって想像以上の苦境に追いつめられていく物語である。その選択は、一般人であればごく普通の、むしろ幸福な出来事といっていいようなものだ。彼女の言動に対して思うところは、観る人の立場、意見、趣味などによって異なるだろう。ただ、どの立場にあっても、偏った主観や価値観をおおいに揺るがす効能はあるはずだ。

 深田晃司監督が手がけた初の大手メジャー作品としても見どころは多い。不条理な状況を容易に発生させてしまう業界自体の構造的問題を描いているので、深田作品としては最もストレートなドラマになっていると言える(つまり語り口のほうを不条理にする必要があまりない)が、作家性は十分に感じることができる。結果的に、問題意識はより明確に、同時にストーリーは明瞭な普遍性と現代性を獲得した。ちょっと「気を使いすぎ」な感もあるが、その周到さも本作の魅力ではある。

 アイドル業界の裏と表を舞台にした問題作といえば、今敏監督の長編アニメーション第1作『PERFECT BLUE』(1997年)が思い浮かぶ。主人公の未麻はアイドルから女優への転身に四苦八苦するうち、やがて連続殺人事件に巻き込まれ、妄想と現実が混濁した狂気の世界へと没入していく。血なまぐさいサイコスリラーを通して描かれるのは、元アイドルの「現実への帰還」のドラマだ。

 それは現役アイドルの目指すところとは正反対のアクションともいえる。アイドルたちはむしろファンタジーを力とし、味方につけ、その活動を通して現実を自分の力で変革しようとする。マーベル・シネマティック・ユニバースに登場するスカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)のごとく、己の魔力で世界の法則をねじ曲げようとするのだ。そのために、世の魔女見習いたちは並々ならぬ努力をステージの裏側で重ねていく。

 しかし『恋愛裁判』の真衣は、中学時代の同級生・間山敬(倉悠貴)と再会し、大道芸人となった彼が難なく「魔法を使う」さまを目の当たりにする。もちろんタネも仕掛けもあったのだろうが、画面には一切映らない。世のアイドルたちにとって、それは喉から手が出るほど欲しい力ではなかろうか。

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