安達奈緒子が『おかえりモネ』に込めたものとは? 清原果耶の“じっくり考える”ヒロイン像

安達奈緒子が『おかえりモネ』に込めたもの

 概ね、回り道をしても、さまざまな出来事は後で考えれば繋がっているということが描かれているが、ときに、効率的に最短距離を選んだり、利益を追求することも、否定されていないように感じる。例えば、百音の父親の耕治は銀行員で、仕事柄、回り道を選びにくい職業であるが、単に効率的に見える出来事も、「回り道」に反対する概念ではなく、そこにはそこの道理があるのだということが示される。

 また、森林組合が地元の木材で作った学童机を小学校に導入するために、手作業で何千という数を半年後の期日までに作らないといけないとなったときにも、効率的に安くて早く机を作ることのできる家具メーカーも公共事業には必要で、単なる敵ではないと示されていた。

 百音が働く森林組合に併設している「よねま診療所」の若手医師・菅波光太朗(坂口健太郎)の行動にも、リスクを回避しようとするところや、つっけんどんなところは多いが、そこには彼なりの考えがあり、百音と出会うことで、お互いに歩み寄り、回り道をしながら最適なところにたどり着くのだろうと思える。百音が学童机のことで落ち込んでいたときに菅波がかけた「ものごとがうまくいかなくて落ち込むようなとき、僕は何かしら、新しい知識を身に着けるようにしています」という言葉が、今後の百音にも多大な影響を与えることだろう。

 このように、登場人物の誰もが回り道をしながらも、なにかにたどり着くまでを、じっくり追っていくのがこのドラマだと思える。そして、じっくりした物語を成立させているのは、やはりヒロインの百音を演じる清原果耶によるところが大きいだろう。

 本作と同じ安達奈緒子が脚本の『透明なゆりかご』(NHK総合)のときと同様、なにかが起こったときに、すぐに反応したり、言葉を発するのではなく、一度、じっくり自分の中に飲み込んで考えているようなヒロイン像を演じられるのは、彼女ならではのように感じる。

 百音の、じっくり考えること、そして菅波が示した新しい知識を身に着けるという行動こそが、このドラマの数々のテーマをつなぎあわせ、そして「ブレイクスルー」させていくのではないかと思うし、実際の世の中にも必要なことではないかと思えるのだ。

■西森路代
1972年、愛媛県生まれのライター。大学卒業後は地元テレビ局に勤め、30歳で上京。東京では派遣社員や編集プロダクション勤務、ラジオディレクターなどを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国、日本のエンターテインメントについて執筆。また2016年から4年間ギャラクシー賞の選奨委員も務めた。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『わたちたちのおしゃべりの記録』(駒草出版)『「テレビは見ない」というけれど』(青弓社)など。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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