『ヴィンチェンツォ』『模範タクシー』『ロースクール』 韓国の“私的復讐ドラマ”がアツい

韓国で同時期に制作された“私的復讐ドラマ”

『ロースクール』Netflixにて独占配信中(写真はJTBC公式サイトより)

 このブームにひとつのカウンターを突きつけるのが、6月9日に韓国で放送終了したばかりの『ロースクール』(Netflix)だ。名門法科大学院の学生と、元検事でソクラテス式問答法を授業に取り入れるヤン教授(あだ名はヤンクラテス)が、大学構内で起きたいくつかの事件を、法曹を目指すものたちの実践演習のように謎解いていく。ミステリーとしての綿密な脚本と演出、そしてハーバード・ロースクールを舞台にした『ペーパーチェイス』(1973年)の現代版というような法曹教育現場が組み合わさった秀逸なシリーズだ。ドラマ内で議論される法律の中には、『模範タクシー』でもテーマになっている推定無罪の法則があり、これを疎む「(推定無罪は)99人の犯人の被害者のことを考えていない。検事は涙をのむ人を1人も出してはいけない」という教授のセリフがある。そして、『ヴィンチェンツォ』の弁護士事務所名“藁”(依頼人が最後に掴むものが由来)も、完全なる正義の元では公権力など非力化できることを表す比喩として使われる。放送順では最後になった『ロースクール』の制作がどの程度まで進んでいたのかはわからないが、クリエイターがお互いを意識していたのは明らかだろう。『ロースクール』の学生も教授も、ことあるごとに正義の女神テミス像(剣と天秤を両手に持つ、司法・裁判の公正さを象徴する像)の前で「法は正義なのか?」「法が見極める真実とは?」と苦悩し、心を新たにする。ヤンクラテス教授は「法を教える時、法は完全でなくてはならない。法を学ぶ時、法は正義でなくてはならない。正義でもない法は、最も残忍な暴力だ」と言う。法そのものは不安定な存在だが、正義と真実の究明は法を扱う者の矜持にかかっている。そして未来の法曹たちにそれを根付かせることこそが、無法地帯となってしまった現在を軌道修正する唯一の“合法な”道となる。

 映画やドラマを含むあらゆる創造物は、時代の空気と無関係ではいられない。数年前、様々な国から雨後の筍のように現れた“分断・格差社会”をテーマにした作品群の次は、法と正義のあり方を問うものになるかもしれない。世界中が注目する韓国映像界からそれを象徴するような3作品が同時期に作られたのは、偶然ではないのだろう。

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

■放送情報
『模範タクシー(原題)』
CSチャンネル・KNTVにて、7月11日(日)日本初放送スタート 毎週日曜20:00~22:30(2話連続)ほか
(c)SBS
公式サイト:https://kntv.jp/program/kn210703/

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