猟奇殺人事件を題材に“労苦”を描く異色作 『インベスティゲーション』にみる“物語の力”

猟奇殺人事件を題材に“労苦”を描く異色作

 ミステリーや刑事もので、事件が電光石火の速さで解決に向かうさまは観る者にカタルシスをもたらす。だが、現実はそんなに甘くない。2017年にデンマークで発生した猟奇殺人事件を題材にとったドラマ『インベスティゲーション』(Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて配信中)は、徹底してその“労苦”を描き切る異色作だ。

 スウェーデンの女性ジャーナリストが、デンマークの男性発明家を取材するため彼が自作した潜水艇に乗り込むも、消息を絶ってしまう。失踪した彼女の捜索が行われ、潜水艇が見つかるが、ほどなくして海の底に水没。ジャーナリストが見つからないまま死亡の線が濃厚になるが、争点は「殺人か、事故か」。容疑者となった発明家は「彼女は潜水艇のハッチに頭をぶつけて死亡した。恐ろしくなって海に遺棄した」と事故を主張。捜査主任のイェンス・ムュラー(ソーレン・マリン)は殺人の可能性を探るが、手がかりを得られないまま焦燥感だけが募っていく。タイムリミットは、容疑者を勾留できる4週間。精神をすり減らすような日々は、徐々に捜査員や遺族を蝕み――。

 第1話でムュラーは言う。「人の死は4パターン。自然死、事故、自殺、殺人だ」だと。そしてどれに該当するかで、その意味も影響も、全く異なる。ジャーナリストは、「どのように」亡くなったのか? 容疑者の証言は真実なのか? 本作では、その証拠となる死体が見つからないと、捜査がどれほど困難を極めるのかを、事件関係者への入念な取材を経たうえでつぶさに描き切っている。となれば、死体さえ見つかれば万事OKかというと、そうではない。

 全6話のうち中盤で死体は見つかるのだが、全身ではなく切断された胴体のみ。視聴者としては「これで殺人確定だ!」と早合点してしまうのだが、まず「DNA鑑定でジャーナリストと照合」→「本人と確認出来たら死亡が確定」と段階を踏み、さらに「腕と足と頭は意図的に切断された」「胴体には17か所以上の刺し傷・切り傷があり、全て死亡後につけられた」ということがわかっても、容疑者の殺人を立証することは難しいという説明がなされる。この時点では、「事故死したために死体を遺棄した」か「殺害して死体を遺棄した」か、つまり「死因」がわからないからだ。

 そのため捜査員は、ダイバーやボランティアも動員して陸と海から地道な“遺体探し”を続ける。観る者の逸(はや)る「期待」を裏切り、過酷な「現実」を提示し続ける――。本作はまさに「investigation」=「調査」を体現した力作といえるだろう。

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