心に残る韓国ドラマ『ムーブ・トゥ・ヘブン』 遺品整理士が届ける“大事な役割”が泣ける

韓国ドラマ『ムーブ・トゥ・ヘブン』が泣ける

遺品整理を通して伝えられるメッセージを紐解く

 私たちはきっと知っていることより、知らないことが多いまま死んでしまう。例えば、自分の想い、親または子からの想い、パートナーからの想い、友人からの想い、毎日通っているコンビニの定員は「あれ、最近見かけないな」なんて心配してくれていたのかもしれない、それも想いなのだ。その“知られることのなかった想い”までを届けるのが、ムーブ・トゥ・ヘブン社の理念であり、遺品整理士グルの大事な役割である。もちろん故人の口から想いを直接聞くことはできないが、聞こうとする気持ちがあれば「故人と話すことができる」と彼らは言う。

 グルは時にドビッシー『月の光』、また時にはショパン『夜想曲第2番変ホ長調』のクラシックを聴きながら故人の人生をたどり、また故人の声に耳を傾けながら遺品を黄色い箱に詰めると“想い”とともに残された人たちにそれを手渡す。その先にあるストーリーに涙してしまうのは、故人の想いを知った時に、彼らはそこにはもういないから。せめて「ありがとう」だけでも伝えていたら…...。多くの人がそんな自分の経験を重ねたことだろう。

 「故人と話す」ことについて、どのように描かれているのだろうか。ジョンウが亡くなった後にグルが初めて現場に入った時、不安で何をすればいいかわからなくなってしまった。すると「いつものようにやればいい、まずは挨拶から」とジョンウの声が聞こえてグルひとりでスタートを切る。さらに、「いつでも側にいるよ」と伝えてきたジェフンの言葉が、グルを勇気づけた。思い返せば、グルのように言葉に支えられて生きている瞬間が幾度となくある。グルは故人と話すことで、自分自身とも向き合うようになり、頑張った時に「よくできました」と必ず褒めてくれたジェフンの変わりに、今は自分に「よくできました」と声をかけて父親の死から前に進もうとしている。逆をいえば、自分が誰かに言った言葉が、その人の支えになり得るということだ。グルが私たちに預けてくれた“大事な役割”とは、誰かに声をかけること、そして自分自身にも「よくやった、頑張った」と声を掛けてあげることなのではないだろうか。それは、グルの向かいに住む幼なじみのナムのように「グル、何かあったら絶対連絡して!」としつこくお節介を焼いてもいいし、ふと思い浮かんだあの人に「元気?」とただ言葉をかけるだけでもいいのである。

 韓国のノンフィクション・エッセイ『旅立った後に残されたもの』(著:キム・セビョル)を元に脚本が作られた本作は、過労死、孤独死、同性愛、自殺、ストーカー殺人、海外養子、そして身近な人の死という現代の問題から繋がる“死”について語っている。すべての人に寄り添った演出とグルたちから生まれるあたたかい空間から、ひとつひとつのエピソードが日常にあり触れていることのように感じられた。だから、「あの時ひとこと声を掛けていたら........」と本作に出てくる残された者と一緒に涙を流してしまうし、明日我が身にも起るかもしれないことを思い知らされる。あんなに幸せそうに暮らしていた親子が、呆気なく永遠のお別れをすると誰も想像できなかったように。その日常にある“大事な役割”が涙を浮かべるほど惜しまれることだということを我々の心に刻んだのだ。

■ヨシン
韓国作品中心に愛を叫ぶ。一日三膳三ドラマをモットーに、毎日作品に触れる。ソウルフードはトッポッキ。ヨシンは韓国語で「女神」のことです。悪しからず。Twitter

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です』
Netflixにて独占配信中

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