老いた母親と自閉症の息子の自立描く 加賀まりこ×塚地武雅『梅切らぬバカ』公開決定

 54年ぶりの主演作となる加賀まりこが塚地武雅と親子役で初共演を果たした映画『梅切らぬバカ』の公開が決定した。

 

本作は、『浅田家!』の中野量太監督、『水曜日が消えた』の吉野耕平監督などを輩出し、これまで日本映画の若手映画作家を育ててきた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・製作。過去に短編『第三の肌』でも「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に選出された映画作家・和島香太郎が脚本・監督を務める。ドキュメンタリー映画にも関わり、障害者の住まいの問題に接してきた和島監督は、本作では、老いた母親と自閉症の息子が地域コミュニティとの交流を通じ、自立の道を模索するさまを描く。

 地域社会と距離を置き古民家でひっそりと暮らす珠子を演じるのは、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた小栗康平監督『泥の河』や、『月曜日のユカ』、『ダイヤモンドは傷つかない』など数々の作品に出演し、近年ではドラマ『花より男子』(TBS系)で松本潤演じる道明寺の母を演じた加賀。主演映画としては1967年『濡れた逢びき』以来、実に54年ぶりとなる。珠子の息子で、自閉症の忠男役を、『間宮兄弟』で日本アカデミー賞新人俳優を受賞し、『キサラギ』や『ハンサム★スーツ』にも出演したドランクドラゴンの塚地が務める。

 さらに、珠子たちの家の隣に引っ越してきた里村家夫婦を渡辺いっけいと森口瑤子が演じ、珠子と交流を深めていく里村家の息子・草太役で斎藤汰鷹が出演。さらにグループホームの運営に反対する乗馬クラブのオーナーに高島礼子、グループホームの代表に林家正蔵らが名を連ねる。

 なお本作は、上海国際映画祭アジア新人部門作品賞へのノミネートも決定した。

 出演が決定した加賀、塚地、和島監督、上海国際映画祭プログラミング・ディレクターの徐昊辰がコメントを寄せている。

コメント

加賀まりこ

手にした台本は今時のチャラさがなく、内容が新人らしからぬ地に足が着いているものでした。
どんな人が書いたのだろうと思っていたら和島監督は、叔父にあたる元横綱の北の富士さんに似た雰囲気はあるものの、全く無口で静かなヤツでした。
障害を持つ子供の親の方は、人に優しく、責任感が強い。その部分を大事にして演じました。
息子役の塚地さんは前からファンでしたが、共演してみてますます好きになりました。
そうして出来上がった映画は、たんたんと重い場面がすすむのでかえってホッとしました。音楽も、静かでよかったです。
いやでも「明日」はやってくる。この親子の日常は続く。どうか見守ってください。

塚地武雅

台本を読ませていただいた時は、忠さんを取り巻く家族、隣人、グループホームの仲間、世話人の方、仕事場の方々、地域の皆さん、多くの人の生活が丁寧にリアルに描かれており、大切なテーマだなと思いました。和島監督はこのテーマに対し一緒に悩み、一緒に喜び愛情を持って作品を作り上げ、その愛が映像にも出ていると思います。
共演させていただいた加賀さんは優しく頼りになる本当に母のような存在でした。常に作品のことを考え、こうした方がいいのではというアイデアもなるほどと納得するものばかりで、お芝居に対する姿勢、取り組み方を今回沢山学ばせてもらいました。
忠さんを演じるにあたりグループホームを訪問し自閉症の人達の生活を見させていただき、ご家族や世話人の方からも沢山お話を聞かせていただきました。自分の中に見えてきた忠さん像を、プレッシャーもありましたが真摯に真っ直ぐに演じました。
この作品を通して、自閉症の方の性格や行動を学び少しでも理解すると接し方が変わるのではということに気づかせてもらいました。
自閉症を知るきっかけにこの作品がなれればいいなと思っています。

和島香太郎監督

以前、あるドキュメンタリー映画の編集を担当しました。自閉症と軽度の知的障害を抱える男性のひとり暮らしを描いた作品です。
膨大な映像素材には、男性を支える親戚や福祉関係者の姿が記録されていましたが、近隣住民の姿が写っていませんでした。
自立を支える人間が身近にいない問題に言及するため、近隣住民への取材を試みましたが、カメラを向けることは許されませんでした。溝を深めているのは、自閉症を原因とする予測のつかない行動への恐れと、「安定した暮らしを保ちたい」という普通の願望のために語られる、障害者排除の論理でした。虚構という形であれば、この意図せざる差別の構造を描けるのではないかと思い、本作を構想しました。
テーマに共感してくださった加賀さんは、共生の可能性を模索すると共に、自分を生かしてくれた息子・忠男への感謝の思いを携えて演じてくださいました。また、塚地さんが演じる忠男を見つめていると、ありのままで生きる喜びと日常を守ることの尊さを感じ取ることができます。
上海国際映画祭へのノミネートを嬉しく思っています。障害のある人の住まいをめぐる問題と、共生の描写がどのように受け止められるのかが楽しみです。

上海国際映画祭プログラミング・ディレクター 徐昊辰

“障害者への偏見や差別”、“他人や社会へ配慮しすぎる人々”。この社会はどこかズレている。
そして、コロナはその“ズレ”を更に加速させた。和島香太郎監督は、この世の中を冷静に見つめ、力強いメッセージを出した。
皆さん、どうか“バカ”にならないでください!

■公開情報
『梅切らぬバカ』
2021年、全国ロードショー
出演:加賀まりこ、塚地武雅、渡辺いっけい、森口瑤子、斎藤汰鷹、林家正蔵、高島礼子
監督・脚本:和島香太郎
配給:ハピネットファントム・スタジオ
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2020」長編映画の実地研修完成作品
(c)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
公式サイト:https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
公式Twitter:https://twitter.com/umekiranubaka

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