『ミッチェル家とマシンの反乱』にみる、フィル・ロードとクリス・ミラーのプロデュース力
しかし、それならば、なぜわざわざCGを使わなければならないのか。それはもちろん、アメリカの多くの大手スタジオがCGによる製作手法に移行した状況にあるためだが、仮に従来の手描きアニメーションの手法に本当に全部戻してしまえば、CG作品が到達した利点を捨て去ることになってしまう。なので、CG作品のまま手描きの風合いに接近するというバランスを選択することになる。
これは奇しくも、日本のアニメーションスタジオの多くが、手描き作画を中心にしながらも、部分的にCGをとり入れることでCG作品に接近している状況と、逆の立場で似ることになっているといえよう。その意味では、アメリカでも、日本の手描きとCGによるハイブリッド・アニメーションが近年とくに好意的に受け入れられている状況とも繋がってくるのかもしれない。
さて、そんな個人的な感性による映像の風合いは、本作のメインテーマとも深くかかわってくる。物語は世界的な機械の反乱という、地球規模の大事件を背景としているが、中心に描かれるのは、世界の存亡というよりあくまで家族の物語であり、ケイティとリックの関係の修復と歩み寄りである。『スパイダーマン:スパイダーバース』でも、中心にあるのは主人公の成長だったのと同様、ここで描かれるのも個人的な成長なのだ。
本作のように、物語が要請する個人の世界を、ここまで主観的な感性で描くことができたというのは、やはりアニメーションならではといえるだろうし、それが新しいものと豊かなドラマ性を同時に求める観客の適切な位置に収まることになったのは、さすが、確かな方向性で新しい表現を追求する、フィル・ロードとクリス・ミラーのプロデュースといったところだろう。
今後のフィル・ロードとクリス・ミラーが製作するアニメーションとしては、建国の祖といえるジョージ・ワシントンやサム・アダムズらアメリカの偉人たちが、チェーンソーを振りまわしたりしながら、独立のため自らイギリスと戦うという、めちゃくちゃな内容の『アメリカ THE MOVIE』がNetflixで配信される予定のほか、2022年には、待望の『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編が、スムーズに進めば公開されることとなる。さらには、監督作の企画も複数待機中であり、評価が上がり続けている彼らの活躍は今後も当分続きそうである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■配信情報
『ミッチェル家とマシンの反乱』
Netflixにて配信中
監督・脚本:マイケル・リアンダ、ジェフ・ロウ