アメリカの映画館が日常に戻りつつある兆候 #TheBigScreenIsBackの取り組み

アメリカの映画館は再開の兆し有り

 さらにパラマウンド・ピクチャーズの国内配給の統括者クリス・アロンソンは劇場公開と同時に配信もされる『クルエラ』(日本では5月27日より劇場公開、5月28日よりディズニープラス プレミア アクセスにて公開)と同じ日に公開予定の『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は「映画館だけでしか観られない」と強調するように話し、その後本作の監督であるジョン・クラシンスキーを含む多くの監督やキャスト(エドガー・ライト、ジェニファー・ハドソン、ライアン・レイノルズなど)がビデオメッセージで登場した。

 「今日、私たちはここにコミュニティとして集っている」と話すのはユナイテッド・アーティスツ・リリーシングのチーフディストリビューター、エリック・ロミス。まさに一丸となって様々なスタジオが、今年に映画館で公開される新作のフッテージをこぞって紹介した本イベント。そこにはユニバーサルをはじめ、ライオンズゲート、ソニー・ピクチャーズ・クラシックス、A24、フォックス・サーチライト、IFCフィルムズ、ネオン、フォーカス・フィーチャーズ、MGMとそのパートナー会社のUARなどが集まったが、HBO Maxでの新作映画配信を強行させ多くのハリウッド人を怒らせたワーナー・ブラザーズの姿はそこになかった。

 プレゼンテーションはブラムハウスのプロデューサー、ジェイソン・ブラムの以下のコメントで締めくくられた。「今紹介された映画の試写が観られるなら、どの作品でもここに残って観ていきたい。今、クリエイティブコミュニティの間ではバズが起きている。もちろん、映画館が再開することに対する興奮だ。なぜなら、そこが今最も全てのアーティストがお互いの仕事ぶりを見られる空間になっているから」。また、今業界内で揺らいでいるビジネスモデルの変換や企業統合(おそらくAT&Tとワーナーの問題など)について、「そのせいで僕らは回復と目まぐるしい変化の中にいる」と言いながら「頭が回ってしまうよ、そこから何を製作したらいいのかわからないぐらい」とコメントした。

 確かに、先週から続くこの企業間の問題はハリウッドをざわつかせて仕方ない。ただ、その問題、つまりAT&Tの傘下であるワーナーメディアがディスカバリーに統合されることも映画館再開の目処が立ちストリーミングサービスの価値が1年前とは変わってしまったことに発端するのではないだろうか。ワクチンの普及が進む中、北米の劇場は65%がすでに再開されている。さらに、ナショナル・リサーチ・グループによる新たな世論調査では、映画ファンの70%が映画館に再来することに抵抗がない、前向きである(ただしマスクの着用条件付きで)と回答した。加えて、5月23日に放送された『サタデー・ナイト・ライブ』では、女優のアニャ・テイラー=ジョイがホストとして登場し、閲覧席にようやくフルの状態で人が入って来られるようになったことを祝福した。

 これらの数字や事象は、ハリウッドをはじめとする全米の映画シーンが正常に戻り始めていることを示すのに十分な兆候だ。世界中の映画を愛する者たちが、長く暗いトンネルを歩き続けていた。一方、日本では緊急事態宣言によって都心の大型映画館の休館が続く。このアメリカのモデルを参考にして、世界各国、そしてもちろん日本の映画シーンの日常が戻ってくることを心の底から願うばかりだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

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