『スーパーカブ』はまるで純文学のよう? 日常的な芝居など“引き算の演出”が生む豊かさ

 そして第1話から第3話では、スーパーカブを手に入れたことによって、行動範囲が増える様子を。そして第4話から第6話までは、とても身近でバイクや車に比べると、ともすればバカにされがちなスーパーカブの持つ可能性を描いている。この“走行距離が増える物理的な変化=人生における行動範囲が広がる精神的な変化”という描き方もまた、観ていて心地いいものだ。

 本作からは徹底的に親などの保護者の存在が排除されているが、それもスーパーカブという1人乗りの乗り物にピックアップすることで、1人の人間の人生と成長を描くようにも感じられる。時にはメンテナンスを教えてもらい、友人や同好の仲間を見つけながらも、最後には1人で長い道のりや悪路を進む。まるで人生訓の詰まった純文学を読み進めているような気分にも近しいものを感じる。

 ともすれば、こういった日常的な芝居の積み重ねはアニメではなく、より自然な演技もできるであろう実写で行った方がいいと考える方もいるかもしれない。だが、おそらく実写で描くと日常的すぎて退屈に見えてしまう可能性があるほか、アニメの日常芝居にはそれを強調する効果がある。ただスーパーカブを手に入れて、走り回るだけの女子高生たちの日常が、とても尊く、日常の変化を感じることができるのも、アニメの力ではないだろうか。

 引き算の演出から生み出された演出や作画は、その空白に視聴者が視線を集中させることで、作品世界を豊かにし、心を満たしてくれる。これがバイクや車であればもっと派手な作品になり、味わいが変化しただろう。素朴な日常を感じさせてくれるスーパーカブだからこそ、等身大の人生を感じさせてくれる。さて、今日はどこに出かけようか。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■放送情報
『スーパーカブ』
AT-X、TOKYO MXほかにて放送中
キャスト:夜道雪、七瀬彩夏、日岡なつみ
原作:トネ・コーケン/イラスト:博(角川スニーカー文庫刊)
監督:藤井俊郎
シリーズ構成、脚本:根元歳三
キャラクターデザイン:今西亨
協力・監修 本田技研工業株式会社
制作:スタジオKAI
製作:ベアモータース
(c)Tone Koken,hiro/ベアモータース
公式サイト:https://supercub-anime.com/

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