庵野秀明も自身の作品に引用 岡本喜八監督作『激動の昭和史 沖縄決戦』が必見である理由

 沖縄の市民の集団自決には、軍部の強制であったか、そうでなかったかで、現在も議論がなされているが、少なくとも、軍が市民に投降の方法を教えず、米英軍を鬼だと教え、捕虜になるのなら自決を選ぶべきだと指導していたことは事実である。そうやって沖縄の一般市民が命を絶っていくなか、投降することで生き延びた軍人も存在したのだ。ならば、なぜ市民は命を守る方法を教わることができなかったのか。それは、軍が市民の生命を本気で守ろうとしていなかったことを意味しているのではないか。

 このように投降を許されなかったのは、日本の一般市民全体に対しても言えることだ。しかし、大本営が沖縄を捨て石にしたことからも分かる通り、沖縄の人々や土地はとくに、本土のそれに比べ一段低く、蔑視的な見方をされていたと判断することができる。

 その蔑視感情は、現代日本の排外主義へと受け継がれているところがある。2016年に大阪から派遣された機動隊員がヘリパッド移設工事に抗議していたデモ隊に対し「土人」と発言して問題になったのは、その一例であろう。また、米軍ヘリの部品が落ちてきたと主張した宜野湾市の保育園園長は、SNSなどで同じ日本人と見られるネットユーザーたちから、証拠もなく「狂言だ」と誹謗中傷を受けた。これらの沖縄市民に対する差別的な言動は、沖縄戦で筆舌に尽くし難い被害を受け、いまもなお基地負担を強いられている沖縄の歴史と現状を知っているならば、そしてとくに日本国民であれば、絶対に戒めるべきものだ。

 そういった歴史的経緯を知るためにも、沖縄の被害がどの映画よりも克明に表現された『激動の昭和史 沖縄決戦』は、とくに日本国民は観ておかなければならない、必見の作であろう。そして本作に描かれたように、政治的な判断や差別が、ときに自国の人々の生命にとって、最大の脅威になり得ることを心に刻んでおきたい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『激動の昭和史 沖縄決戦』
Blu-ray&DVD発売中

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