小芝風花の軽やかな一歩に見えたもの 『モコミ』最終話で迎えたそれぞれの“今らしい”結末

小芝風花『モコミ』が迎えた今らしい結末

 俊祐にしてもそうだが「自己犠牲」というのは難しいものだ。誰が明言したわけでもないし誰から頼まれたわけでもない、それどころか周囲は本人が望んでそうしていると思っているが、実際本人にとってはそれが相当な足枷や重荷になっている事象というのは、こと「家庭内」では生じやすいのかもしれない。それぞれに家族の中で、“夫/妻として”“父親/母親として”“長男として”“跡取りとして”“一人娘として”……そんなふうに勝手に役割を負わされ、互いにそれに縛られ、相手のことも縛ろうとしてしまう。ただ、「自己犠牲」ばかり強いる関係性は当然ながら健全ではなく、長続きはしない。日本の家族の特徴なのかもしれないが、“家族だから分かり合えて当然”“親子なんだから気持ちは通じ合っているだろう”という考えが根強いのか、家庭内で大切なことほど言葉にして、口に出して話し合えていないことはないだろうか。意外に口に出してしまえば、自分で自分に課していた役割を周囲は特に望んでおらず、自身の勝手な思い込みや気負いだったり、自分でもその役割に甘んじて何かを諦める口実に使ってしまっていたことに気づくこともあるのではないだろうか。最初は妻の顔色ばかり窺い何も言えなかった伸寛が、自分一人でも田舎への移住計画を断行できたように。最初は大声を出しただけで驚いていた家族が、俊祐の投げやりな物言いや辛辣なコメントにいちいち驚かなくなったように。

 そして、この作品は「家族」や「大切な相手」というのは、何も同じ屋根の下ずっと一緒に過ごし、近くにいる存在のことを必ずしも指すわけではないことも示唆している。佑矢が萌子美に言った通り“離れていても繋がっている”、物理的距離にかかわらず、一人で踏ん張らなければいけない時に実際にはその場に自分一人で立っていたとしても心の中で“みんなが付いている”“みんなも頑張っているんだし”そんなふうに思い合える相手のことを言うのではないだろうか。

 萌子美と佑矢のように互いに“特別な存在”に違いないが、それとは別に個々にやりたいことがあり、互いの人生を歩む中で“きっとまたどこかで会える”と繋がりを感じながら、それぞれの持ち場で頑張れる関係性も“今っぽく”アップデートされており心地良い。清水家全員が“思い込み”や“建前”などを差し引き、本当に「自分が大切なもの」だけを手元に残し身軽に軽やかに新たな一歩を進み出した姿を、この4月に見せてもらえて良かった。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』
出演:小芝風花、加藤清史郎、工藤阿須加、田辺誠一、富田靖子、橋爪功、水沢エレナ、内藤理沙ほか
脚本:橋部敦子
演出:竹園元(テレビ朝日)、常廣丈太(テレビ朝日)、鎌田敏明
音楽プロデュース:S.E.N.S. Company
音楽:森英治
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:竹園元、中込卓也(テレビ朝日)、布施等(MMJ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:メディアミックス・ジャパン(MMJ)
企画協力:オスカープロモーション
(c)テレビ朝日

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