『エヴァ』を唯一無二の作品にした選曲の“いびつさ” 音楽的気持ち良さが滲む独特の編集

追告 A『シン・エヴァンゲリオン劇場版』絶賛公開中

 また、新劇で登場する新キャラ、真希波・マリ・イラストリアスがエヴァを操縦する際、口ずさんでいるのは「三百六十五歩のマーチ」や「真実一路のマーチ」など、なぜか水前寺清子なのも面白いし、『シン・エヴァ』で松任谷由美の「VOYAGER~日付のない墓標」を林原めぐみ(綾波レイ)がカヴァーしていたのも印象的だった。

 振り返ってみれば、新劇のエンディングで宇多田ヒカルを起用したのも、(今やエヴァにとって欠かせない要素の一つだが)最初は違和感があった。『プロフェッショナル』で庵野は、「きれいに作ってもそんなに面白いものにならない。きれいなだけだから。僕の面白いというのは、ちょっといびつなところにある」と語っていた。エヴァにおける、こうした選曲の「いびつさ」も作品を唯一無二ものにしている要素の一つだし、それは同時代の他の映像作品にも大きな影響を与えているのである。

 また、同番組で庵野は「アングルと編集がよければ、アニメーションって止めでも大丈夫。動く必要もない。実写でも、役者がどんなにアジャパーでも、アングルと編集がよければそれなりに面白くなるよ」とも話している。映像にリズムやグルーヴを刻んでいく「編集」は、ある意味では「音楽的な作業」だと筆者は常日頃思っているのだが、劇中歌の効果について、事ほど左様に意識的な庵野が、編集に執拗なまでのこだわりを見せるのは当然のことと言えよう。

 『エヴァ』のファンにミュージシャンが多いのは、音楽の「いびつな使われ方」や、編集の「音楽的な気持ちよさ」に魅了されている部分は少なからずあるはず。「いびつさ」と「気持ちよさ」、その絶妙な匙加減にも『エヴァ』の魅力は隠されている。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、石田彰、立木文彦、清川元夢、関智一、岩永哲哉、岩男潤子、長沢美樹、子安武人、優希比呂、大塚明夫、沢城みゆき、大原さやか、伊瀬茉莉也、勝杏里、山寺宏一、内山昂輝、神木隆之介
音楽:鷺巣詩郎
制作:スタジオカラー
配給:東宝、東映、カラー
上映時間:2時間35分
(c)カラー
公式サイト:http://www.evangelion.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/evangelion_co

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