トムとジェリーは戦時中、現実世界にやってきていた アニメ×実写融合作品の歴史を紐解く
実写パートとアニメパートの入れ子構造
2007年の『魔法にかけられて』では、実写パートとアニメパートが入れ子構造になっている。アニメの世界に住むジゼルは、婚約者エドワード王子の継母に“永遠の幸せなど存在しない世界”、現代のニューヨークに追放されてしまう。ニューヨークにやってきたジゼルは実写となり、エイミー・アダムスが演じた。ディズニーのセルフパロディ満載の本作は、運命の相手との結婚が永遠の幸せだと信じ、気持ちが高ぶると歌い出すというジゼルの現実世界ではありえない行動が笑いを誘う。しかしそれだけでなく、実写の、現実の世界に来たことで、彼女は王子さまと結婚することが究極の幸せである“お姫さま”から、自分にとっての幸せは何かを考え、自分で行動する“現代の女性”へと成長していく。実写とアニメの融合作品では、その映像のミスマッチが魅力となるが、同作はキャラクターの考え方、価値観のミスマッチがストーリーのポイントとなった。またアニメの世界から実写の世界にやってくるというジゼルの物語は、『メリー・ポピンズ』でキャラクターたちがアニメの世界に入っていったのと逆の入れ子構造になっているのがおもしろい。
レゴのミニフィグたちの、はちゃめちゃな冒険が楽しい『LEGO(R)ムービー』(2014年)も、こうした入れ子構造の作品だ。終盤で明かされるレゴの世界と実写の世界の関係は、予想していなかったものだが納得感がある。こうした入れ子構造の作品は、2000年代以降によくみられるようになった。
映像のミックス感が楽しい実写アニメ融合作品
実写とアニメが融合した映画の大きな魅力のひとつは、やはりアニメキャラクターのかわいさだろう。またその歴史をみてみると、初期のものは『メリー・ポピンズ』をはじめ、ファンタジックなアニメーション背景に実写の俳優たちが登場するものがメインだった。80年代以降には、実写の世界にアニメキャラクターが登場し、アニメ特有の動きで観客を笑わせた。また映像技術の進歩により、アニメと実写の動きの境目に違和感がなくなる。そして2000年代以降にはメタ的な入れ子構造の作品が登場した。時代とともにその特徴は変わっていったものの、映像のミックス感と実写とアニメのスムーズな連携が見どころにである。
2021年公開の『トムとジェリー』もまた、実写と並んで違和感のない、最新のCGのキャラクターが登場する作品とは違った魅力を持つ。なぜ、技術の進んだ今彼らがふわふわのピカチュウのように実写化されなかったのか。それは1945年、すでにアニメーション世界の住民としてジーン・ケリーと共演した二人の歴史に敬意を表しているからかもしれない。そして今後も、こういったアニメと実写が同じ画面上に登場する作品は、作られ続けていくだろう。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、思春期は演劇に捧げる。30歳手前でSEからライターに転身。
■公開情報
『トムとジェリー』
全国公開中
監督:ティム・ストーリー
出演:クロエ・グレース・モレッツ、マイケル・ペーニャ、ケン・チョン、コリン・ジョスト、ロブ・ディレイニー
配給:ワーナー・ブラザース映画
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