トムとジェリーは戦時中、現実世界にやってきていた アニメ×実写融合作品の歴史を紐解く
さて、少し時代が下ると、今度は実写の世界にアニメーションのキャラクターが登場するように。1988年公開の『ロジャー・ラビット』は、アニメのキャラクターたちが実写の世界に、人間たちとともに住んでいるという設定だ。正確にはトゥーン・タウンというアニメキャラクターだけが住む町があり、彼らは人間たちが働くスタジオにやってきて映画やテレビの仕事をする。あるとき殺人の容疑をかけられたアニメキャラクター、ロジャー・ラビットは、人間の私立探偵エディとともに事件の真相を追う。
実写の世界で、たとえば驚いて目玉が飛び出したり、重いものの下敷きになって、身体がぺたんこになったりするアニメ的な動きを見るのは楽しい。同作は二転三転するサスペンスとして良くできたストーリー展開や、さまざまな映画へのオマージュで、大人の観客も満足させてくれる作品だ。さらにはディズニー、ワーナー、ユニバーサルなど、スタジオを越えて有名アニメキャラクターが大量にカメオ出演していることにも驚かされる。
1995年公開の『キャスパー』も、こうした実写主体の映像にアニメキャラクターが登場した名作だ。スクリーンを所狭しと飛び回るアニメーションのおばけたちは、やはりその特有の動きで観客に笑いを、クリスティーナ・リッチ演じる主人公の少女キャットとおばけの少年キャスパーの淡い恋は感動を届けた。実写の映像にアニメキャラクターを合成する作品が増えたのは、CG技術の進歩によるところが大きいのだろう。アニメーションのキャラクターにあわせて実写の小道具が動く映像などは、当時の観客を驚かせ楽しませた。
この流れのなかで、1996年の『スペース・ジャム』はアニメーション主体の作品として制作された。NBAを引退したマイケル・ジョーダンは、宇宙人に狙われたルーニー・トゥーンズたちを救うため、バッグス・バニーらとともにバスケの試合に挑むことになる。しかし世界的な人気スターと人気アニメキャラクターを絡めた同作の評価は芳しくなかった。本作のアニメ世界は、初期の実写とアニメーション融合作品のように、夢のある、そこに行きたいと思えるものではなかったのかもしれない。宇宙人に侵略され、バスケ勝負で勝たなければ遊園地の見世物にされてしまうという、崖っぷちの世界だった。
また、ルーニー・トゥーンズはロジャー・ラビットと同じく、実写の世界に出てきてもらうほうが向いているキャラクターたちのように思える。アニメならではの動きをする彼らを実写の背景で動かせばおもしろいものになっただろうが、『スペース・ジャム』のキャラクターたちは基本的にアニメの世界にいる。これまでにヒットした実写アニメ融合作品と、やっていることが真逆になってしまったのだ。2021年には続編『スペース・ジャム:ア・ニュー・レガシー(原題)』の公開が予定されており、同作ではこうした点が改善されていることを期待したい。