星田英利がもたらす鶴亀家庭劇の不和 『おちょやん』“兄弟の因縁”の行方
これまでずっと万太郎(板尾創路)を目の敵にしてきた千之助(星田英利)。しかし今回の千之助の力の入り用はこれまで以上。今がその恨みを晴らす時と言わんばかりに、敵意を燃やす。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第68話ではそんな千之助と万太郎の因縁が描かれる。
「鶴亀家庭劇の竹井千代さんやったな」と千代(杉咲花)の元に迫る万太郎。その堂々とした佇まいからは、勝負に対しての焦りなどみじんも感じられない。さらに小山田(曾我廼家寛太郎)が千之助の言葉を鵜呑みにして万太郎一座の台本を盗み見ようとした件に関しても一切狼狽える様子さえ見せず、予定の演目である「万太郎十八番」の台本全てを明かすのだった。しまいには千代たちの劇団が、万太郎一座に勝てない理由は「鶴亀勝てん劇」などと皮肉を言うと、千代に卵を手渡して去っていく。
千夜は万太郎に直接、千之助との過去の確執について問いただす。万太郎はあっさりとしたもので、「千之助という使えない役者を切り捨てた。ただそれだけだ」と説明。話は20年前に遡るが、当時、千之助を役から降ろしたことで、千之助と万太郎は不仲になってしまったのだ。
かつては同じ須賀廼家兄弟一座で人気を分かちあってきたふたりだったが、ある日万太郎が千之助の手を離す。どうにも納得できずに荒れる千之助に「おもろない。お前と一緒に芝居してても退屈や」と言い放ち、卵の仕込まれたカツラを渡して生卵まみれにさせるなど屈辱的な行為で気持ちを踏み躙った。万太郎が、千之助をやめさせた真意は一体どこにあるのだろうか。ライバルとして存在が邪魔になったのか、千之助の奔放な芝居に合わせるのが嫌になったのか、それとも言葉通り単に「おもろいから」なのか。
日ごろとっつきにくいところのある千之助が、どんなに無茶な芝居をしても、鶴亀家庭劇ではなんとかやってこれた。そしてそんな千之助を真っ先に支えていたのが百久利(坂口涼太郎)だろう。これまでどんな時も千之助の味方をしてきた百久利は、いつでもそばに寄り添っていた。しかし今回、百久利は千之助の書いた台本を「面白くないと思う」と、泣きながら正直に述べる。これまでずっと千之助と居たからこそ台本の出来不出来が分かるという百久利。そこには千之助を思う気持ちがぎっしり詰まっていた。千之助には本当に面白いことをやってもらいたい、憧れの師匠であってほしいという気持ちが伝わるこのシーンは、百久利が、どれだけ千之助を本気で慕っているのかが伝わる感動のシーンとなった。
しかし当の千之助は気合が空回りし、怒りに任せた行動で鶴亀家庭劇の中でも不和を生じさせている。さらには荷物をまとめて出て行こうとするなど、鶴亀家庭劇の舞台に立てるのかすら怪しい展開に。はたしてかつての“兄弟の因縁”は無事、仲直りに向かえるのだろうか。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/