人間の心と社会の闇を深くえぐる “ワールドクラス”の日本映画となった『すばらしき世界』
優しさや心遣いによって、世界はその姿を変える。三上が安田成美演じる昔の妻と会話するシーンは、そんな瞬間を、カメラのフォーカスを利用した、光がぼけて広がっていく演出で表現する。“自己責任”という言葉が蔓延し、“自助”を強調することで政府すら自らの責任を回避しようとする現在の社会において、それでも世界の価値を見出そうとする本作は、本来の人間の価値や社会の価値を、きれいごとだけではなく問題点をも描くことでリアリティを持たせながら、あらためて正面から提出しているのだ。
そして本作では、三上の生き方に影響される津乃田の姿も印象的に描かれている。彼はもちろん三上のように腕っぷしで、自己責任社会を打破していくようなことはできない。だが津乃田には、文字を紡ぐという才能がある。彼は彼のやり方で現状をうったえ、人の心を動かすことで、社会の構造に変化を与えられる可能性がある。自分のやり方で、この世界をより良い状態にしていく……それは、三上を助けた人々にもいえるし、あのコスモスを掘り起こした青年にもいえることだ。そして、この映画自体もそんな役割を担っているといえるのではないか。生きるに値する“すばらしき世界”をつくることは、誰にだってできる。本作はそんなメッセージとともに、広い視野でグローバルに通用する、未来に開かれた作品となっている。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『すばらしき世界』
全国公開中
出演:役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、長澤まさみ、安田成美
脚本・監督:西川美和
原案:佐木隆三著『身分帳』(講談社文庫刊)
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
公式サイト:subarashikisekai-movie.jp