⻲梨和也が表現する悲哀に圧倒される 『レッドアイズ』二転三転する極上のサスペンス
蠣崎のベッドサイド。指輪に気付いた伏見が、はっと眼を見開くシーンが印象的だった。「どうして彼女のこと、守ってあげられなかったんだろう」涙ながらのその言葉、渡せなかった指輪に、自身の過去が重なる伏見。疼くような自身の痛みと闘いながら、被害者の悲しみに配慮した伏見の気持ちを、蠣崎は利用し、踏みにじった。湊川が蠣崎に誘拐されたのだ。
振り返れば確かに、犯行の“まさにその瞬間”を見た者はいない。「人は信じたいものを信じる」。蠣崎はそれを“弱さ”だと言った。けれど、ひとつの命が奪われ、目の前に深く傷ついた被害者がいる。犯人へと繋がる道を見つけたなら、助けられる命があるなら、きっと誰もが全力で走るだろう。警察官であるなしの前に、人間とはそういうものであるはずだ。
しかし悲しいかな、そうした人間的な“心”を、弄ぶことができる人間もいるのだと知る。いつから蠣崎に欺かれていたのかすら、今は分からない。史実上、ゾディアックによる2件目の犯行も男性のみ生存している。蠣崎はそれさえも知った上で、この非情なシナリオを描いたのだろうか。警察に対し挑発的な姿勢を崩さぬ蠣崎だが、ふと事有りげな、虚な表情を浮かべる瞬間がある。まさに身を切った“本案件”の目的は、いよいよどこにあるのだろう。
水曜日は息子と過ごす日――敢太(森島律斗)との電話で「なるべく早く帰る」と約束した湊川の、綻んだ顔が思い出される。強き彼女が見せる、優しい母の顔。「息子は大事にせえよ」「取り返しのつかんもんもある」山崎のこの台詞が、やけに心にひっかかる。“黒幕”による相関図では、山崎にも息子がいるようだが……彼自身、過去に“取り返しのつかんもん”を置いてきたのだろうか。仕事熱心のあまり、電話に出ない島原に腹を立てる妹・はるか(高橋ひかる)の描写にも、胸騒ぎがする。“青いコートの男”が、すぐそこに迫っている。
湊川と、彼女を待つ息子を思い、現場を離脱させた伏見。“取り返しのつかないもの”の重みを誰よりも知っている彼の優しさが、予想だにしない事態に繋がってしまった。叫び、感情のままに壁を殴りつける伏見。無音の演出が、拳以上に痛む心をありありと伝える。
「原点に帰れ」。蠣崎の言葉が意味するものとはなんなのだろうか? 「殺してやる」―――怒りに満ちた伏見の“眼”が、赤く燃え滾る。
※高橋ひかるの「高」はハシゴダカが正式表記
■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。Twitter
■放送情報
『レッドアイズ 監視捜査班』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:⻲梨和也、松下奈緒、趣里、シシド・カフカ、松村北斗(SixTONES)、高橋ひかる、木村祐一
脚本:酒井雅秋、福田哲平、まなべゆきこ
音楽:カワイヒデヒロ
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:尾上貴洋、茂山佳則(AX-ON)
演出:水野格、長沼誠ほか
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/redeyes/
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