2020年の年間ベスト企画

年末企画:井中カエルの「2020年 年間ベストアニメTOP10」 コロナ禍でもアニメは大豊作!?

 3位も6位と同じくポケモン関連作品。YouTubeを活用し、8分ほどの作品を1カ月に1作発表という斬新なスタイル、ポケモンと共に暮らす世界が普通のものとしてある世界の造形や、サブキャラクターそれぞれの悩みに注目した点、美しい映像美を評価したい。6位と合わせて、ポケモンがより世界基準で受け入れられるために、多様な人種を起用しステレオタイプに描かないなどの高い志と、既存の表現に縛られない挑戦する姿勢を感じた。

 2位はufotableのアクション描写や撮影技術の高さに驚愕以外の言葉が出なかった。日本のみならず、世界のアニメーション表現と比べても、特にアクションに関しては5年は更新されないのではないだろうか。もしそれができるとしたら、ufotable自身が更新する以外ないのではないかと思わせるほどで、まさに宝具という他ない。また同人、PCゲーム文化にルーツを持つ作品が、長い年月を経てこれほどの表現に昇華されたことも感慨深いものがある。

 1位は圧巻としか言いようがない。画面全体から作品のテーマである「愛してる」を全力で美しく叫び続けるも、その愛に限りがない。長い月日をかけてヴァイオレットがたどり着いた終着点を表するには、どんな言葉すらも陳腐になるだろう。京都アニメーションの渾身の技術と思想が心をうつ。作品に漂う表現の覚悟に圧倒されて、それに敬意を払い、この映画をランキングに含めて他の作品と比べてもいいのかと、今でも迷っている。

 どの作品も素晴らしかったが、特に5位から上はBL、ヨーロッパ圏のアニメーション、配信作品などを語る際の指標になるだろう。また1、2位を超える作品は今後5年は出てこないのでは? と感じている。しかしそうは言いながらも毎年のように更新してくる制作者たちの弛まぬ努力と表現欲に敬意を表したい。

 最後に少しアニメ作品とは離れるようだが、2020年はバーチャルYouTuberも躍進を見せた。2Dのアニメ調のキャラクターとして配信する姿のは、ニコニコ動画開設以来の広義の意味でアニメ文化の発展と、更なる変化の可能性を感じさせた。キャラクタービジネスの他にも、近年大きな流行をみせるアイドルアニメにも影響を与えるであろう動きだけに、今後も要注目していかなければいけない。YouTubeをはじめとした配信文化が、アニメ文化をどのように変えていくのか楽しみだ。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が生み出すカタルシス “真っ白な人”の歩みを辿る
劇場版『Fate/stay night』早くもチケット争奪戦が始まる なぜ圧倒的人気を獲得?
『薄明の翼』は今後アニメ作品を考える上で重要な試みに 現実世界と陸続きのポケモンとの“共生”

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame

■公開情報
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
全国公開中
出演:石川由依、浪川大輔
原作:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』暁佳奈(KAエスマ文庫/京都アニメーション)
監督:石立太一
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
世界観設定:鈴木貴昭
美術監督:渡邊美希子
3D美術:鵜ノ口穣二
色彩設計:米田侑加
小物設定:高橋博行
撮影監督:船本孝平
3D監督:山本倫
音響監督:鶴岡陽太
音楽:Evan Call
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
配給:松竹
(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
公式サイト:http://violet-evergarden.jp
公式Twitter:@Violet_Letter
公式Instgram:@violetevergarden_movie

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