竹内涼真がより気になる存在に? 『竹内涼真の撮休』にみる、『撮休』シリーズのマジック

『竹内涼真の撮休』にみるシリーズのマジック

 そんな竹内涼真の身体のデカさからくる異物感は、『竹内涼真の撮休』の第1話「薫るスパイスカレー」でも存分に強調されている。不意にやってきた撮休日。スーパーで買い物をした帰り道、竹内涼真は以前から気になっていた近所のカレーのスパイス屋に立ち寄るのだが、お店の中に入る際にも身体をかがませないとドアをくぐり抜けることができない。妖艶な雰囲気を漂わせるスパイス屋の店主・薫(小池栄子)は、竹内涼真にお店で料理をしていかないかと誘う。竹内涼真の背中に回ってエプロンの紐をしめながら薫は言う。「大きいね」。それに対する竹内涼真の一言。「すみません、デカいですよね」。

 竹内涼真くらいデカくてハンサムだとその存在感を消すことも難しくて、街を歩けば、すれ違う女性の多くはその人物が竹内涼真だと気づかなくても振り返るだろう。ましてや、その人物が竹内涼真だと気づいたらーー。当たり前の話だが、きっと竹内涼真からは自分のような男には想像もつかないような世界が見えているに違いない。ところが、第1話「薫るスパイスカレー」に出てくるスパイス屋の店主は映画やテレビを見ない生活をしていて、竹内涼真が竹内涼真であることを知らない。そこがこのエピソードのポイントとなる。

 以前、知り合いの独身のミュージシャンがこんなことを言っていた。「自分は自分のことを知っている女性とお付き合いできないんです」。ちなみにそのミュージシャンは国民的とまでは言えないまでも、当時は頻繁にもテレビに出ていたかなり有名なミュージシャンで、「彼のことを知らない女性」という条件は恋愛対象を相当狭めることになるはずだった。さらに言うなら、出不精の彼が「彼のことを知らない女性」と知り合うシチュエーションとなると、こちらはもうほとんど想像がつかなかった。しかし、有名人の一部には、同じような難儀な志向を持つ人が少なからずいるのではないだろうか。

 本当の竹内涼真がどうなのかはわからないが、「薫るスパイスカレー」の竹内涼真は、人気者である自分のことを知らない薫に対して、普段のガードを下げて(それは、入店した時にかぶっていた帽子や眼鏡をすぐにとって素顔を見せることでも表現される)、だんだん惹かれているような様子を見せていく。少なくともこの第1話を見る限り、『竹内涼真の撮休』はメタフィクション的な楽しさを追求していた『有村架純の撮休』よりも、ファンタジー的な要素が強い作品になっていきそうな予感がする。

 このように、「竹内涼真のファン層」とはかけ離れている自分のような人間が見ても、『竹内涼真の撮休』を見ると、見る前よりも確実に竹内涼真が気になる存在となってくる。このシリーズの持つマジックは、そんなところにあるのかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■放送情報
WOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』
WOWOWプライムにて、11月6日(金)スタート 毎週金曜深夜24:00〜放送(全8話)
出演:竹内涼真、小池栄子、渋川清彦、藤野涼子、松本穂香、佐野勇斗、佐津川愛美、藤原季節、富司純子、松本まりか、山本浩司、岡部たかし、森川葵、吉村界人ほか
監督:廣木隆一、内田英治、松本花奈
脚本:狗飼恭子、ぺヤンヌマキ、ふじきみつ彦、舘そらみ、松本哲也、玉田真也、竹村武司、首藤凜
音楽:つじあやの
主題歌:平井大「Holiday」(テレビ朝日ミュージック/avex)
制作協力:ホリプロ
製作:「竹内涼真の撮休」製作委員会
(c)「竹内涼真の撮休」製作委員会
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/satsukyu2/

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