『ハリー・ポッターと秘密の部屋』は“2回目”が楽しい 振り返ると気づく魅力的なシーンの数々

ドビーに嘆きのマートル、いじめられっ子が物語のキー

 私が個人的に本作をとても気に入っているのは、ひとえにドビーが出てくるからといっても過言ではない。ドビー大好き! そして50年前にトム・リドルにバジリスクをけしかけられ、トイレで殺された少女マートルも良い味を出している。彼らは日々、虐げられてきた存在である。ドビーに関しては主人のルシウスから「1日5回は脅迫されている」とハリーに話していたが、英語ではDeath threatと言っていて、ただの脅しではなく生命を脅かされていることがわかる。マートルも死んでいるから痛みを感じないだろう、と在校生に物を投げられる的のような扱いをされている。彼女はいつも、シクシク泣いている。そんな彼らが本作のみならずその後も重要な鍵を握っている存在なのが意味深い。マートルはその後も『炎のゴブレット』で一役買うし、ドビーに関しては『死の秘宝 PART1』でハリーたちの命を救う。

 『秘密の部屋』のラストも痛快で、ドビーがハリーから靴下をこっそりもらったことで自由の身となる。仕組みを噛み砕くと、ハリーがリドルの日記に靴下を忍ばせて、ルシウスにまず手渡す。それをルシウスがドビーに渡したことで、“主人から衣類をもらった”ということになったのだ。ルシウスはこれに腹を立て、「アブラ…」と例の死の呪文をハリーにぶつけようとするが(校長室の目の前なのに凄い度胸だ)、この時もドビーは前に立ちはだかり、難なくルシウスを吹っ飛ばす。実は屋敷しもべは魔法使いより強い魔術を持っていたりする。自分を助けてくれたドビーにハリーはお礼を言いつつ、「もう二度と僕を救おうとしないで」と、約束させた。数年後、ドビーはこの約束を自らの命を投げ打ってまでして破ることになる。ああ……目頭が……。

てんこ盛りなのに製作費はシリーズで一番安い!

 最後に、もうひとつ『秘密の部屋』が凄い作品である理由に触れておきたい。それは、ここまで見どころがてんこ盛りなのにも関わらず$100million(1億円)というシリーズで最も低い製作費で作られていることだ。世界興行収入は$878,979,634(約918億円)と、下から2番目の成績ではあるものの(最下位はアズカバン)、わずかに届かなかった世界興収$896,911,078(約936億円)の『炎のゴブレット』の製作費が$150million(1億5千万円)だったことを考えると、『秘密の部屋』はなかなか優秀な作品である。

 何よりクリス・コロンバス監督が続投し、あの素晴らしい1作目からのテンションを失速させることなく世界観を保つこともできただけでも上出来だ。

 列車から逃れ、魔法の車が湖畔をヘッドライトで照らしながら飛んでいく。ジョン・ウィリアムズによる天才的で壮大なテーマ曲とともに映されるホグワーツの景観を見て、笑顔が抑えきれないハリーに「おかえり」とロンは声をかけるが、これは観客である私たちにかけられた言葉でもある。『ハリー・ポッター』の世界に戻って、またあの冒険を味わえる。『秘密の部屋』は、その嬉しさを噛み締めることのできる素晴らしい作品なのだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。InstagramTwitter

■放送情報
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
日本テレビ系にて、10月30日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大
原作:J・K・ローリング
監督・製作総指揮:クリス・コロンバス
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ケネス・ブラナー、トム・フェルトン
TM & (c)2002 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights (c) J.K.R.

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