江口洋介、上白石萌歌、志尊淳が生み出すハーモニー “名曲”が心に染みる『天使にリクエストを』
歌に乗せた回想のシークェンスにおいて描かれたのは「懐かしく輝かしいあの頃」ではない。「懐かしく輝かしいあの頃」からも疎外され、一人佇む幹枝の姿なのである。その歌がラジオから流れていた頃、赤ちゃんを抱えた幹枝は、安保闘争に励む学生たちを横目で見ながら、食堂で働いていた。勉強をしながら東京で働くのが夢だった彼女に、運命はあまりに過酷だった。
彼女は、思い出の歌の背景にある時代の中心にいない。このドラマは、そういう、一つの時代に染まり切れなかった、はみ出してしまった誰かの人生を照らす物語でもある。そして、歌というものはいつも、そんな端っこにいる誰かの味方だ。
第3話における、「本物」になりたいあまり、爆弾犯になろうとした男・武村(塩見三省)の魂を掬い上げたのが、命を張って彼の人生の価値を見出し、肯定した島田と、武村の人生そのもののような歌「生活の柄」だったように。
このドラマは、「救済」のドラマだ。面白いのは、一方的な救済ではないことである。型破りな探偵・島田は、度々フラッシュバックする自分自身の過去と向き合おうとするかのように、依頼人の人生に全力で向き合っていく。その様は、武村から「あなたのような人こそ生きていかなきゃならん」と逆に励まされるほど危なっかしい。彼は、誰かを救うことで、自分を救っている。
全5話という短いスパンのこのドラマ、あっと言う間の終盤戦である。不器用な「傷だらけの天使」たちは、どこに辿りつくのか。そして、今日の曲は何だろうか。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
土曜ドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送(全5回)
※BS4K先行放送 6月4日(木)スタート 23:15〜24:04放送
出演:江口洋介、上白石萌歌、志尊淳、板谷由夏、倍賞美津子ほか
作:大森寿美男
演出:片岡敬司ほか
音楽:河野伸
制作統括:陸田元一(NHKエンタープライズ)、高橋練(NHK)