『トロールズ ミュージック★パワー』が投げかける疑問 “多様性”を考える契機となる作品に?
拒否権を認める
「多様性を認める」とは、「みんなで仲良くする」と同意語で語られがちですが、認めるからこそ適度な距離を置くことも大切ではないでしょうか。本作のポピーは、みんなが共に仲良く暮らすことこそ正義だと信じており、急に距離を詰めようとします。ですが、バーブのように時間をかけて距離を縮める人もいるでしょう。
映画の場合、尺や起承転結が必要なので、「急な受け入れ」を軸に葛藤が描かれるようなことはありませんでした。みんなで仲良く歌う「Just Sing」後に、それぞれのトロールたちがどうなったのかが描かれることなく、「仲良く=正義」で終わってしまっています。
しかし、本当に「多様性を認める」のなら、「波風立てたくないけれど、本当は仲良くしたくない」や「放っておいてほしい」という気持ちがあったとしても、多様性のひとつとして受け入れられるべきで、その感情も正義ではないでしょうか。
『トロールズ ミュージック★パワー』のオープンクエスチョン
この「多様性を受け入れる時、受け入れられる側に拒否権はない」様子を見せつけられた時、私は強烈な違和感を覚えました。そしてその違和感が、観客にYESやNOでは答えられない、オープンクエスチョンになっていることに気がつきました。
本作は、違いを認識して争わないという理想を描きつつも、さらにその先の、相手に仲良くすることを強要していないかにも疑問を広げています。さらに、同じ民族同士で固まったり仲良くすることを悪しきことと捉えがちになっている最近の風潮にも疑問を投げかけているような気がするのです。
本作はふわっとした「多様性」というテーマに、自分なりの考えをぶつけるキッカケとなる作品です。こういった作品を小さい頃から当たり前のように鑑賞し、大人とディスカッションする機会を与えられる子どもは、成長した時にどんな価値観を持つようになるのでしょうか。
■中川真知子
ライター。1981年生まれ。サンタモニカカレッジ映画学部卒業。好きなジャンルはホラー映画。尊敬する人はアーノルド・シュワルツェネッガー。GIZMODO JAPANで主に映画インタビューを担当。Twitter
■公開情報
『トロールズ ミュージック★パワー』
公開中
監督:ウォルト・ドーン
出演:アナ・ケンドリック、ジャスティン・ティンバーレイク
吹き替えキャスト:上白石萌音、ウエンツ瑛士、仲里依紗、宮野真守、松本梨香、吉野裕行、平田広明、木村昴、斉藤壮馬、浪川大輔、ミキ・昴生、関智一、ミキ・亜生、速水奨 ほか
配給:東宝東和、ギャガ
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公式サイト:http://trolls.jp