『半沢直樹』大和田常務を愛すべき男へ昇華 香川照之の熱さから溢れる愛嬌

香川照之の熱さから溢れる愛嬌

 令和の時代にあって、毎話20%超えの恐るべき視聴率を叩き出し続け、ドラマのTBSここにありと牽引するドラマ『半沢直樹』。その人気を支えているひとりが、香川照之演じる東京中央銀行取締役の大和田暁だ。池井戸潤の原作をベースに、7年前の2013年に放送され、最終回には42.2%(ビデオリサーチ調べ、世帯視聴率・関東地区)の驚異の視聴率を記録した前作の待望の続編として放たれた今作。54歳、漢(おとこ)香川照之の脂が乗りまくり、飛び散りまくっている。

 本シリーズの成功が、主人公の半沢直樹を、魂を込めて演じる堺雅人の熱演によるのは言わずもがな。『リーガル・ハイ』シリーズ(フジテレビ系)から、映画『南極料理人』『クヒオ大佐』『ツレがうつになりまして。』『その夜の侍』、NHKの大河ドラマ『真田丸』など、主演作の一部を取り上げるだけで、役者としての巧さが分かるが、その堺とがっぷりよつに組める香川がいたからこそ、「倍返しだ!」のパワーワードもここまでの威力を持って輝けたといえる。

 だが続編が発表された当初、大和田が登場するのかは分からなかった。なぜなら池井戸の『半沢直樹』シリーズ『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(全て講談社)に、大和田は登場していないからだ。しかしふたを開けてみればどうだろう。原作を基盤にしながらも、原作にはいない大和田が、毎話爪痕を残しまくり、求められてもいる。

 「施されたら施し返す。恩返しです!」。第1話から大和田の中野渡頭取(北大路欣也)への忠誠、愛が弾けた。かつて「恩返し」なる言葉でここまで笑ったことがあっただろうか。これなら子どもが真似しまくろうと安心だ。と思いきや、第2話では首をかき切るポーズで「君はもう、おしまいです。お・し・ま・い・DEATH!」の爆裂ワードを投下。9月6日に組まれた特別生放送番組では、堺が香川のこの演技に笑い崩れてしまう、カット後の様子が放送された。もはや止まらぬ大和田ワールド。

 第6話では、半沢が政府にたて突いたことで東京中央銀行が目を付けられたと嘆くシーン。大和田は「銀行沈没! 頭取もチンボォ~ッツ!!」と、椅子に大仰に沈没。これは堺からのアイデアだと、同特番で明かされた。この劇薬的キャラクターを、主演の堺も一緒になって楽しんでいることが分かる。第7話では、もう相棒にしか見えない半沢とともに曾根崎(佃典彦)を、まんま歌舞伎な「さあ、さあ!」の掛け合いで追い詰めた。

 2013年版から香っていた時代劇的要素を、これでもかと打ち出し成功へと繋げた今シリーズ。原作を生かしつつドラマ的要素をミックスした脚本に、テンポのいい演出、濃い演出と濃い演技にも全く霞むことのない音楽。なにより達者な役者陣。香川だけでなく、いとこでもある市川猿之助や、尾上松也、前作から続投の片岡愛之助といった歌舞伎役者や(といっても香川が九代目市川中車として受け入れられ、歌舞伎の舞台に立ったのは2012年になってのことだが)、古田新太、山崎銀之丞、土田英生などなど多くの舞台人が出演し、独特の世界観を形成した。そこで、まさに水を得た魚を超え、空飛ぶ魚状態となった香川。

 セリフに応じて揺れる頬に唇、セリフ以上に雄弁な眼球に皺、眉、肩に背中。そこかしこで圧を放ちながら、香川がすごいのは、そこに少しの愛嬌を振りかけているところだ。香川は、そのバランスをきっちり掴んだうえでの大和田を打ち出し、視聴者を楽しませている。

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