『MIU404』を印象的なセリフで振り返る “表の世界”を築くためのヒントに

セリフで振り返る『MIU404』

「悪い大人もいるけど、ちゃんとした大人もいる。諦めないで、まずは福祉や公共に頼る。君たちはひとりじゃない」
ジュリ(りょう)

 大人が子どもを食いものにするのが当たり前になりつつあるこの世界で、コスプレイヤーのジュリが家出少女たちに語りかけた言葉も、とてもまっとうなものだった。最終回で彼女たちがメロンパン号の窮地を救うために声を上げたのも、かけられた言葉や善意の積み重ねがあったからじゃないだろうか。

「ガマさん、何があってもあなたは人を殺しちゃいけなかった。全警察官と、伊吹のためにも」
志摩一未(星野源)

 『アンナチュラル』とのコラボで沸いた第8話は重く辛いエピソードだった。愛する妻を理不尽に殺され、犯人を手にかけてしまった伊吹の恩人で元刑事の蒲郡。逮捕されて連行されていく彼に志摩がかけた言葉には、どんなに激しい感情があったとしても倫理と法の秩序を大切にしたいという彼の信念が表れている。

「表の世界だけ。悪い人が捕まって、頑張ったら報われて、正しいことをした人が後悔しないで済む世界」
羽野麦(黒川智花)

 警察に情報を提供したことで裏世界の実力者、エトリ(水橋研二)に狙われた女性・羽野麦の言葉。つまり、今の日本は頑張っても報われない、正しいことをした人が後悔をする世界ということになる。

 理不尽な暴力にさらされ続ける彼女は「どうして私が逃げなきゃいけないの? 女だから? 力が弱いから?」と語っていたが、「仕方ない」「自己責任」で済ませずに「一緒に戦おう」と寄り添ってくれたのが桔梗であり、伊吹や志摩たちだった。

「窓の一つ一つに人がいて、んー、なんつーかなぁ、みんな暮らしてるんだなぁ、って」
伊吹藍(綾野剛)

 姿を見せないエトリ、SNSを操って人を追い詰めていく久住や動画配信者のREC(渡邊圭祐)の存在感が増していく中で、伊吹がふと漏らした印象的な一言。匿名のSNSアカウントが跋扈し、数字がお金に替わっていく世界の中で、その先に人がいるという想像力の有無が大切になる。

「間に合ったぁ!」「間に合った……!」
伊吹藍(綾野剛)、志摩一未(星野源)

 相棒を死なせてしまった志摩と、恩師の罪を止めることができなかった伊吹。大切な人の危機に間に合わなかった二人が懸命に力を合わせ、暗く深い闇の底に手を伸ばして羽野麦と成川岳(鈴鹿央士)を助け出すことができた。何ごとも絶対に間に合わないことはない。安堵して抱き合う伊吹と志摩の姿が感動的なシーンだった。

「なぁ、志摩ちゃん。死んだ奴には勝てないって言ったけど、それ違うよ。生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある! な?」
伊吹藍(綾野剛)

 「生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある」とは、世の中、取り返しがつかないことばかりではなく、暗闇の中でも泥沼の中でも精一杯手を伸ばせば間に合うこともあるということだろう。だから、伊吹と志摩は最後まで諦めずに走り続ける。より良い未来を信じて。

「言うとくけどな、俺はたいしたこと何にもしとらん。作りたい奴が薬作って、使いたい奴がつこうて、人形になりたい奴がなった。ま、みんな、頭悪いんやな。頭悪い奴はみんな死んでもろたらええねん」
久住(菅田将暉)

 思わぬ「スイッチ」によって罪を犯してしまった加々見、青池、成川らとは違い、久住は最後まで得体の知れない悪だった。同情や共感でコーティングされた久住の甘い言葉は、宿主に寄生し、本体を蝕み、破滅へと追い込んでいく。それを高笑いして見物する彼の意志は見えない。まるで新型コロナウイルスのような存在だという指摘もあった。

「小さな正義を一つひとつ拾ったその先に、少しでも明るい未来があるんじゃないんですか?」
桔梗ゆづる(麻生久美子)

 どんなに社会が歪んでいても、どんなに人々の悪意が飛び交っていても、それでも希望を捨てず、法を守って、小さな正義を一つひとつ拾っていく。羽野麦が言う「表の世界」、桔梗が言う「明るい未来」を手繰り寄せるには、それしか方法はない。

 久住を追う伊吹と志摩が着ているTシャツに書かれていたフレーズは「I Love Japan」。この国を愛しているからこそ、良くしていきたいと思っている。そんな人たちが奮闘するドラマだった。

「俺は……お前たちの物語にはならない」
久住(菅田将暉)

 黙秘を貫く久住が、最後に伊吹と志摩に投げかけた言葉も波紋を投げかけた。さまざまな架空の物語で人々を翻弄してきた彼は、誰かに物語として理解されることを拒んでいる。

 抽象的な言葉から読み取れるのは、彼が2011年の東日本大震災で大きな絶望を味わったということ。点と点を勝手につないでストーリーをでっち上げる陰謀論は唾棄すべきものだが、事実からその人のことを想像して思いやることは人と人が手を取り合って生きていく中で必要になる。いつか、久住のことを理解し、共感し、寄り添う人が現れるかもしれない。


「まぁ、間違えても、ここからだ」「機捜404、ゼロ地点から向かいます。どーぞ!」

志摩一未(星野源)、伊吹藍(綾野剛)

 巨大な「0」である新国立競技場から二人は再び車を走らせる。間違うことがあっても、生きているなら、何度でもやり直せばいい。一つひとつの「スイッチ」を大事にして生きていけば、必ず気づくときがある。

 ゼロはやり直しのスタート地点でもあるし、無限の可能性を感じさせる数字でもある。この国は歪んでいることがたくさんあるけど、まだ終わったわけじゃない。声の小さな人たちだって、手をとりあっていくことぐらいできる。その先に「表の世界」を築くことだってできるかもしれない――。『MIU404』はそんなことを感じさせてくれる爽快なドラマだった。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■作品情報
金曜ドラマ『MIU404』
Paraviにて全話配信中
12月25日(金)Blu-ray&DVD-BOX発売
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、菅田将暉、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

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