“縛り”によってクリエイターの個性が爆発 コロナ禍を描いたオムニバス映画『緊急事態宣言』の魅力

『緊急事態宣言』“縛り”が生んだ個性の爆発

『DEEPMURO』

 一方『DEEPMURO』は、俳優のムロツヨシ、メディアアーティストの真鍋大度、劇作家の上田誠からなるユニット「非同期テック部」が監督を務め、今回のオムニバス作品の中でも異色の存在感を放つ。最新テクノロジーを駆使した演出を得意とする真鍋と、どんな役でも巧みにこなす卓越した演技力で人気のムロ、映画・舞台・ドラマ・アニメと表現の場を超えて演出力を発揮する上田が三者三様の個性で織りなすハーモニーは、コロナ禍のエンタメ業界を大きく牽引する。2020年春に、ムロによって集められ結成されてから「非同期テック部」はYouTubeやInstagramを作品公開の場とし、緊急事態宣言下にも精力的に作品作りを続けてきた。それらは『DEEPMURO』の構想段階とも捉えられるものであり、『ムロツヨシショー、そこへ、着信、からの』(Instagram)や『ムロツヨシショー、再び』(YouTube)での“ムロツヨシの増殖”という演出が、今回の『DEEPMURO』で活かされる。

 『DEEPMURO』はこれまでの「非同期テック部」の歩みを振り返る映像でスタートする。その後、柴咲コウとともに演技をするムロの様子に視聴者はすぐに違和感を覚えるだろう。その違和感の正体こそ本作で大きなウエイトを占める部分なのだ。このことを発端にストーリーはサイエンスフィクション仕立てで進む。しかし一方で、そこには思いもよらぬ純愛も存在するのであった。

 終始、重層的に構成された22分間はフィクションとノンフィクションの境界を曖昧にする。だが「非同期テック部」の作品が「生(なま)」の感覚を感じさせる最大の理由は、リアルな流行が作品に盛り込まれ、鮮度の高い状態で世に送り出されることにあるだろう。これは本作だけでなく「非同期テック部」の他作品にもいえることであり、オンラインミーティングアプリの「Zoom」を文字った「ズーヌッ」というワードや、任天堂の人気ゲーム「あつまれどうぶつの森」をパロディした「あつまれ同列のムロ」というフレーズ、自粛期間中に多くの芸能人がスタートした「インスタライブ」を新作発表の場に使うなど、トレンドを即座に取り入れる点で工夫が凝らされてきた経緯からも伺える。

 また、本作のために集結した役者の豪華さにも触れておきたい。ムロの事務所の先輩であるきたろうは作中でも現実さながらの設定で登場し、自身の持ち味を生かしたひょうひょうとした芝居で楽しませてくれる。さらに柴咲コウは前半と後半では大きく役割を変え、本作の一番の核となる「純愛」部分の“面白さ”を引き出す。ムロの持つ愛嬌や茶目っ気を含んだ芝居と同じトーンで演じつつ、土台の安定したキャリアの光る名演を見せ、テック×映画の新境地を表現した。

 「緊急事態」というテーマをどう捉えるかはクリエイターによって様々だ。今回のオムニバス作品を5作続けて観た後には、改めてそう感じさせられるだろう。その中で「非同期テック部」の『DEEPMURO』は他作品とは明らかに違う角度から切り取られており、試験的ともいえるトリッキーさは『緊急事態宣言』の中でも異彩を放った。

 こうして作品ごとに全く異なる個性が発揮されることが『緊急事態宣言』の魅力とも言える。ひとつの軸に対して様々なアプローチから練り上げられた作品らは、様相、切り口を変えながら真利子哲也監督作『MAYDAY』までバトンを繋いだ。個性豊かなクリエイターが織りなす作品から、それぞれの個性を感じつつ、それがどのように共鳴するのかその目で確かめてみてほしい。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■配信情報
『緊急事態宣言』
Amazon Prime Videoにて独占配信中
(c)2020 Transformer, Inc.
Amazon Prime Video:www.amazon.co.jp/primevideo
公式Twitter:@KINKYU_JITAI

『孤独な19時』
監督:園子温
出演:斎藤工、田口主将、中條サエ子、関幸治、輝有子、鈴木ふみ奈

『デリバリー2020』
監督:中野量太
出演:渡辺真起子、岸井ゆきの、青木柚

『DEEPMURO』
監督:非同期テック部(ムロツヨシ+真鍋大度+上田誠)
出演:ムロツヨシ、柴咲コウ、きたろう、阿佐ヶ谷姉妹

『MAYDAY』
監督:真利子哲也
出演:各国の人々(日本パート:岩瀬亮、内田慈)

『ボトルメール』
監督:三木聡
出演:夏帆、ふせえり、松浦祐也、長野克弘、麻生久美子

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