“縛り”によってクリエイターの個性が爆発 コロナ禍を描いたオムニバス映画『緊急事態宣言』の魅力

『緊急事態宣言』“縛り”が生んだ個性の爆発

 『緊急事態宣言』。今でこそ聞き慣れたワードだが、実際に緊急事態宣言が発出された令和2年4月7日当初、まだ得体の知れない“ウイルス”に脅かされ世界中の人々が恐怖と不安の中で戦っていた。現在でも、多くの人がこのCOVID-19の騒ぎに大なり小なり価値観や生活を揺さぶられ続けている。そんな否が応でも歴史に刻まれるであろうこの事態を、オムニバス映画にするプロジェクトが立ち上がった。8月28日よりAmazon Prime Videoにて独占配信中の映画『緊急事態宣言』は、日本を代表する5組の監督と豪華キャストが参加し、2020年3月末に感染拡大防止策を徹底した「完全リモート制作映画」としてスタート。その後、5月の緊急事態宣言解除を受け、現場は小規模撮影も交えた製作形態に代わり、刻一刻と変化するコロナ禍をダイレクトに反映させつつ、“緊急事態”がもたらした光も影をも「映画」の世界に落とし込む。新型コロナウイルス感染拡大防止を徹底した状況で撮影、 制作が行われ、新たな映像技術や今までになかった視点からの表現で「緊急事態」をテーマに作品を編み上げたのだ。

『孤独な19時』(『緊急事態宣言』収録)

 コロナ禍における映像制作では、テレビドラマや映像配信でも多くのクリエイターが作品を発表し話題になった。「ソーシャルディスタンス」や「リモート会議」など新しい生活様式によって生まれた価値観や言葉がホットワードになり、エンタメの世界もライブ配信や動画コンテンツへの参入への意識が高まる。さらにそれらを取り入れた作品が生まれ、新たな映像表現が試され始めているのが現状だろう。

 今回のオムニバス作品『緊急事態宣言』は、コロナ禍という“縛り”がある制作形態だからこそできた作品が収録されている。3密を完全に排除した状態での作業は、「十分な意思疎通が難しい」「満足したものが作れない」などというイメージも付随するが、今回の作品では今、3密排除が求められる状況下でどこまでクオリティを上げていけるのか、そしてそんな状況下だからこそこれまでと違う作品が作れるのではないかという挑戦の一歩として大きな意味を持ったと感じる。本作の中の非同期テック部の作品『DEEPMURO』では冒頭に前作の振り返り映像として、第一回作品『ムロツヨシショー、そこへ、着信、からの』、第二回作品『ムロツヨシショー、再び』公開までの打ち合わせの様子や、作品をどのように作り上げていったのかを観ることができる。そこからは、コロナ禍でも技術や発想を使ってより挑戦的な作品を追求していけるのだという熱量を感じ取れた。

『DEEPMURO』(『緊急事態宣言』収録)

 オムニバス映画ということで5作はそれぞれ独立した存在ではあるが、同じ苦境をともにし、同じ「緊急事態」というテーマで作られたことによる繋がりは明確に伝わってくる。それぞれのクリエイターが感じた「コロナ禍」での生活から切り取った表象が、5作を通して強固に結びつき、我々に改めて「思考させる」きっかけを与えるだろう。

 今回はとりわけ『孤独な19時』と『DEEPMURO』について、より踏み込んで言及していきたい。

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