『となりのトトロ』はなぜ多くの人々を感動させるのか 唯一無二の作品になった理由を解説

 宮崎監督が信奉する作品のなかに、『やぶにらみの暴君』(1952年)という、フランスの劇場アニメーションがある。これは監督のポール・グリモーの意志に反して、不完全な状態で公開され、それでもアーティスティックな内容が評価を集めた作品として知られている。その後、監督自身がふたたび手がけ、納得するかたちで完成させた作品が、『王と鳥』(1980年)として公開し直された。これも素晴らしいアニメーションだが、宮崎監督は、比較的唐突なかたちで終わっている『やぶにらみの暴君』の方を、より高く評価しているのだという。

 実際に『やぶにらみの暴君』を観ると、たしかに宮崎監督の気持ちは理解できる。『王と鳥』は端正なつくりで、納得のいくラストを迎えるのだが、それは定型に従った、よくあるオーソドックスなハリウッド大作のような展開だともいえる。そのような定型から外れた『やぶにらみの暴君』の、理性から脱出するようなパワーが、『となりのトトロ』のラストまでの怒涛の展開に見られるのである。

 考え抜かれた描写の数々に、このバランスを崩した描写がくわわったことで、本作は唯一無二の特別な作品となっている。そこに息づいているのは、理性や計算だけではたどり着けない領域の感覚である。宮崎監督は、狂気にも近い自身の激情を武器に、そこにたどり着いた。だからこそ『となりのトトロ』は、多くの人々に正体不明の強い感動を与えることになったのだ。そして同時に、後のクリエイターにとって超えることが難しい奇跡の一作となったといえるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『となりのトトロ』
日本テレビ系にて、8月14日(金)21:00〜22:54放送
※ノーカット放送
原作・脚本・監督:宮崎駿
音楽:久石譲
声の出演:日高のり子(「高」はハシゴダカが正式表記)、坂本千夏、糸井重里、島本須美ほか
(c)1988 Studio Ghibli

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