本郷奏多、30代に向けて見せる新たな魅力 突出した存在感と“普通の男”としての味わい

本郷奏多、30代に向けて見せる新たな魅力

 そんな中、珍しく挑んだ「恋愛モノ」である『56年目の失恋』は、これまた珍しく「普通の青年」役だった。ただし、ヒロイン・中条あやみがタイムスリップして出会い、恋に落ちるコック役のため、厳密に言うと「昔の普通の青年」である。どちらかというと未来から来ていそうな本郷奏多が昭和の料理人というのは不思議な気もしたが、古風で硬派で落ち着いた佇まいは、意外なほどに「昭和の男」だった。

 私たちは普段忘れがちで、昔の映画やドラマ、歌番組を観るたびに新鮮な思いになるのは、食が欧米化する前の「昭和の男」たちは総じて腰が非常に細かったこと。「お菓子が主食」と豪語するご本人の偏食ぶりが生きているのか、こんなにも「昭和の男」がしっくりくる若手俳優はいないのではないかとすら思える。まるでNHKお得意の資料映像を観るように、「生きた昭和の男」が、『56年目の失恋』にいた。

 思えば、同じくNHKで2015年に放送された、さだまさし原作の名作ドラマ『ちゃんぽん食べたか』には、本郷奏多をはじめ、菅田将暉、泉澤祐希と、見事に「昭和感」を出せる、腰の細い演技派の男たちが揃っていた(メインキャストでは、間宮祥太朗だけその路線から外れているが)。余談だが、朝ドラ『エール』の窪田正孝も、見事に腰が細い。「昭和モノ=腰の細さ」は重要なポイントなのかもしれない。

 そして、『大江戸もののけ物語』のほうは、岡田健史との関係性や、天邪鬼自身が背負っている枷などが明らかになっていない段階ではある。出番そのものも多くなく、また、みんなの輪に入らず、反対のことを言う「天邪鬼」としての性質もあって、セリフ自体も多くない。にもかかわらず、一言喋るだけで、その穏やかで、深く柔らかく、広がりのある声に、ハッとさせられる。

 実写映画版でも演じたアニメ『いぬやしき』の声優仕事――いじめられっ子で引きこもりの「チョッコー」役では、クレジットを見るまで気づかなかったほどの巧さを見せてくれたが、何しろ声も滑舌もよく、眼福ならぬ「耳福」の魅力がある。

 さらに、『麒麟がくる』で演じるのは、政治に積極的に関与した異端の若き関白・近衛前久役である。起用理由について、制作統括の落合将チーフプロデューサーは「以前から気になっていた個性派俳優で、高貴な雰囲気も出せる方」と語っていたのが、実に印象深い。

 突出した存在感から「異端」や「天才」「公家」「人間ではない何か」などがよく似合う一方で、意外に「普通の男」としての味わいも見せ始めた本郷奏多。30代に向けて見せる新たな魅力に注目したい。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『大江戸もののけ物語』
NHK BSプレミアムにて、毎週金曜20:00~20:59(連続5回)
出演:岡田健史、本郷奏多、山田杏奈、森川葵、平尾菜々花、青山美郷、イッセー尾形、石丸謙二郎、石井正則、高田翔、宮本裕子、酒向芳、池内万作、藤本隆宏、甲本雅裕ほか
監督:川村泰祐
特殊造形・VFX:岡野正広
妖怪監修:荒俣宏
脚本:川崎いづみ
製作:『大江戸もののけ物語』製作委員会
制作プロダクション:NHKエンタープライズ、光和インターナショナル
写真提供=NHK

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