森山未來×黒木華の圧倒的な演技力を堪能 『プレイタイム』に込められた劇場復活への願い

 そして、劇中劇とも言える、森山と黒木が演じる『恋愛恐怖病』。それ自体もまた、岸田國士による初出が1926年であるにも関わらず、ソーシャルディスタンスが叫ばれる今日この頃を見事に反映した作品になっている。

 互いに惹かれ合いながらも、つかず離れず、男友達・女友達としての関係を続けている男と女。身体はどんどん近づけるが、言葉は逃げ腰の男と、男が近づけば近づくほど距離をとるわりに、言葉はどこまでも近づこうとする女というアンバランスな組み合わせ。命綱をそれぞれに持った不安定な足場の上で行われる恋のシーソーゲームは、彼女が思わず男の手を掴んだことで終わりを告げる。濃厚な接触を避けた形で恋愛を描かなければならない現状、美しく見事な演出である。また、「僕は、あなたなしには、生きていけなくなるでしょう」と言う男に対し「いいじゃありませんか!」と答える女という、岸田戯曲から立ちのぼる男と女の情熱的で濃密な色香にも恍惚とさせられる。

 『恋愛恐怖病』第二場は、観客席に座った男(森山未來)と男(北尾亘)の会話である。戯曲の上では同じ女のことを愛する別人物として描かれている2人だが、『プレイタイム』では、見事にシンクロするダンスと男同士の会話が森山のみの自問自答であることからわかるように、森山演じる男の内なる自分であるかのように描かれている。彼もまた、黒木演じる女の、恋の駆け引きのための「芝居」を見せられていた観客の1人であり、彼女の心の内の真実はわからない。だから彼は、「できることならただ1人、(中略)次の幕が開くまで今観たばかりの舞台をもう一度静かに頭の中で繰り返してみたい」と女を演じる黒木が口上を前に呟いたように、また、我々観客が演劇を観た後にするように、彼が観た物語を反芻するのである。

 男は男に投げかける。「君はまたここにくるね。何度だってここにくるね。(中略)まあ、せいぜい、泳ぎたまえ」と。それは、男へのメッセージであると同時に、観客への劇場への誘いでもある。劇中の「おーい、おーい」という呼び声によって、多くのまだ眠りを強いられていて、ゆっくりと復活の時を待っている劇場が、無事目を覚ますことができる日を、心から願っている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公演情報
シアターコクーン ライブ配信『プレイタイム』
オンデマンド配信決定、詳細は後日発表
原作:岸田國士『恋愛恐怖病』ほか
構成・演出:梅田哲也
演出・美術:杉原邦生
出演:森山未來、黒木華、北尾亘
演奏:角銅真実、秋生智之、ハラナツコ、竹内理恵、巌裕美子、千葉広樹、古川麦
撮影:渡邉寿岳
衣裳:藤谷香子
音楽:角銅真実
舞台監督:南部丈
照明:田中基充
音響:武田安記
ヘアメイク:山口恵理子
劇場機構操作:渋谷ステージセンター
主催/企画・製作 Bunkamura
会場:Bunkamuraシアターコクーン
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/20_playtime/
公式Twitter:twitter.com/cocoon_live

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