BLM運動でハリウッドにも変革のとき ジョン・ボイエガ、マイケル・B・ジョーダンらのアクション
「どれだけ痛ましいのか知るべきだ。毎日、人種を理由になんの価値もないと思い知らされることが」
「今、あなたたちに向けて、心から話している。これでキャリアが滅茶苦茶になろうと、知ったことか!」
2020年6月、ロンドンで行われたBlack Lives Matterプロテストにおけるジョン・ボイエガのスピーチは大きな話題となった。彼は『スター・ウォーズ』シリーズの黒人としてメインキャラクターを演じたナイジェリア系イギリス人俳優だが、この演説をする前、人種差別主義者への批判をスラングまじりにツイートした時点でバックラッシュに遭っていた。「セレブリティは今でも(政治的な)意見を発することで機会を失い、キャリアが損なわれることを恐れている」。そう語った『#Hashtag Activism: Networks of Race and Gender Justice.』共著者サラ・J・ジャクソンは、とくに黒人セレブリティの場合、NFL選手コリン・キャパニックなど「許容される範囲」を超えた主張をしたことでキャリアを毀損された実例があるため萎縮しがちな旨を指摘している(参照:「ハーフタイムショー」はなぜ物議を醸した? Maroon 5出演背景からパフォーマンスまで解説)。
ボイエガは言葉どおり、キャリアを危機に晒すプレッシャーを負いながらプロテストを行ったのだろう。そんな彼は、米映画界のキーパーソンたちからあたたかく迎えられた。『ゲット・アウト』監督のジョーダン・ピールや『スター・ウォーズ』シリーズの俳優マーク・ハミル、監督のJ・J・エイブラムスのみならず、ルーカルフィルムまでもが彼への支持を表明していったのだ。
ジョージ・フロイドの死によって活発化した2020年のBLM運動には、黒人スターのみならず、多くの白人セレブリティ、そして企業が参加している。ディズニーのような巨大企業からAmazon Primeなどのストリーマー、HBOなどの放送局まで足並みを揃えた。Netflixは「沈黙は共犯だ」し、『ムーンライト』を制作した独立系企業A24の場合「我々は黙ってきた。沈黙は選択肢にない」として後悔のようなニュアンスを香らせている。こうした多くの有名企業が、関連団体への寄付や、企業体制改善に取り組む意向を発表している。とくに話題になったのは、ワーナーメディア提供のストリーミングサービスHBO Maxが、奴隷制度を賛美するような描写が問題視されてきた1930年代の有名映画『風と共に去りぬ』の配信を一旦停止したことだろう(後日、解説コンテンツをつけるかたちで再配信された)。また、パラマウント・ネットワークにて30年以上つづいた人気番組『全米警察24時 コップス』など、警官の捜査を肯定的に追うリアリティショーの打ち切りも決定されている。
ときを同じくして、黒人にまつわる人種問題を描く作品の注目度は激増した。Parrot Analyticsによると、「Black Lives Matter: 黒人とアメリカ」コレクションを公開したNetflixにおいて、1989年に起こったマイノリティ人種少年たちの冤罪事件を描くリミテッドドラマ『ボクらを見る目』の米国内需要は前月比17倍、名門大学の黒人アクティビストたちを描いたフィクション『親愛なる白人様』シリーズは前月比6倍もの増加を見せている(2020年7月6日現在)。
エンターテインメントビジネスを専門とするエマソン大学のウェス・ジャクソンいわく、大企業がBLMに賛同した理由はいたってシンプル。「お金」である。企業幹部たちは、今回のBLM運動参加者の多様さを見て「こちら側が儲かる」と方向転換の判断を下したのだ、とCNNにて論じている。事実、警官の人種差別を問題視するアメリカ人は、2014年エリック・ガーナー事件時より増加した。大きな変化が見られたのはマジョリティたる白人層である。さらに、米映画界に限っても「ダイバーシティは良いビジネス」と語られている。今や、ヒット映画のチケット購入者の半分以上が有色人種であることは珍しくない。