『課長バカ一代』はツボに入ったら抜け出せない! 登場人物“全員バカ”の快作
日曜劇場的な熱い方向も?
そのツッコミ目線がもっとも強く現れているのが、当初は八神に敵対意識を燃やしていた部下の前田仁(木村了)の存在だ。いつの間にか八神を尊敬するようになった(もちろんこれは、あきらかに勘違いなのだが)前田は、八神としりとりや山手線ゲームをやるようになっていき、真面目だがどこか抜けている憎めないキャラへと変わっていく。
八神が中学生の頃からのライバルで今は業界最大手の東下電機に入社した剣崎宗一(小林且弥)と再会する場面も印象的だ。二番手の松芝に入ったことをコンプレックスに持つ八神は同じ課長となった剣崎に課長補佐代理心得だとバレることを恥ずかしがり、名刺交換を持ちかけられると「トイレに行く」といって、その場をダッシュで立ち去る。
そして、某「超スピード印刷店」に向かい、課長と書かれた偽の名刺(イラストが横に描いてあり超かわいい)を作って、剣崎と名刺交換をしようとする。
その後、意外な展開があるのだが、このシーンは、くだらなくて笑えると同時に、日曜劇場のドラマで展開される男同士の愛憎劇の背後に見え隠れする見栄の張り合いと会社組織に翻弄される男たちの悲哀が描かれており、中年サラリーマンの男らしい振る舞いの奥底にある、愚かでかわいらしい一面をあぶり出しているといえよう。
そんな、男らしさをいじりたおしたコメディドラマに見える本作だが、中盤以降の展開は、わりとシリアスな日曜劇場的な熱い方向へと向かっていく。まず、オープニングとエンディングに登場していた誰もが気になる“あのロボット”の正体が第5話以降明らかになっていく
彼(?)は、松芝が極秘に開発しようとしていたAI搭載のロボット「松芝一号」。最初は、100メートルを19秒フラットで走り、5キロまでの荷物を運べるという、役に立つのか立たないのかわからない微妙な性能を持ったロボットだったが、その後、焼き肉ロボAIR(空気を読んで対応できるという意味)に生まれ変わり、様々などうでもいい機能が追加されていく。
この松芝一号のくだりがいちいちくだらなくて、このドラマのバカバカしさを象徴するポンコツロボットなのだが、話が進むにつれて、松芝が業務提携をする予定だった外資企業の敵対的買収を仕掛けられ、八神たち商品開発部が集団左遷に追いこまれる中、凍結中だったAIロボット開発プロジェクトが起死回生の切り札となるのだ。
この、リストラの危機から新技術による一発逆転こそ、『下町ロケット』を筆頭とする日曜劇場の王道展開である。無論、登場人物が全員バカの本作が、日曜劇場のよう綺麗にまとまるわけはないのだが、その結末も含めて是非最後まで観てほしい。
働く男(のバカバカしさ)を描いた傑作ギャグドラマである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■リリース情報
『課長バカ一代』
7月8日(水)DVD発売 ※同日レンタル開始
価格:11,400円(税別)
1巻・第1話/第2話/第3話/第4話
2巻・第5話/第6話/第7話/第8話
3巻・第9話/第10話/『課長バカ一代 外伝 係長 前田仁』(スピンオフドラマ)
特典映像:メイキング/制作発表/トレーラー集
封入特典:ブックレット、課長代理補佐心得名刺
出演:尾上松也、木村了、永尾まりや、板橋駿谷、武野功雄、坂東彦三郎、市川左團次
原作:野中英次『課長バカ一代』(講談社刊)
主題歌:THE イナズマ戦隊「リーダー論争」(日本クラウン)
監督:守屋健太郎、村上大樹、近藤啓介
脚本:村上大樹、近藤啓介
スピンオフ監督・脚本:池浦さだ夢
音楽:牧戸太郎
発売元:「課長バカ一代」製作委員会
販売元:松竹
(c)野中英次/講談社 (c)「課長バカ一代」製作委員会