中村倫也、再放送ラッシュで見えた“自由自在さ” 『水曜日が消えた』では1人7役を演じ分ける

中村倫也、再放送ラッシュで見えた自由自在さ

 インタビューによると、配役が決まった際に「その役の生い立ちと自分の共通点を考える」「役と向き合い自分とリンクする部分を探す中で、自分の経験とか記憶の中に入っていく」「その役になりきって街を歩いてみる」などと語っている(引用:“本当の自分”は僕にもわからない。中村倫也、自分探しの旅路を行く|livedoor NEWS)。なるほど、憑依型ともまた違う、固定できない流動的なイメージ、何より「これが全部じゃないよ、ほんの一部だよ」と言わんばかりの底知れなさ、奥深さ、掴めなさは、こうして役を通して自分自身の中に深く入っていくことで作られているのだ。

 だから、役と彼自身の境界線が曖昧で、だからだから常に彼にはまだまだ“余白”があるんだ。そして、これだけ有名になった今なお彼自身が役を邪魔してしまうことが決してない。その余白に我々は常に魅せられている。そんな中でも、役の中で我々に一気に近づいてきてくれるような場面がある。決して全ては見せてくれない男が、“自分にだけ”見せてくれる手の内に女は滅法弱いものだ。そして、またその至幸の瞬間を覗きたくて離れられなくなる。もはやこうなると綻びまで美しく愛おしく感じられてしまうから恐ろしい。これが、女性が男性に抱いてしまう母性本能を伴った「可愛い」の正体だろう。

『アラジン』(c)2018 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

 「色気」と「知性」は「声色」と切っても切り離せない関係にあると思うが、中村は役柄によって声の硬さも変わる。オーディションを勝ち抜いて掴んだディズニー映画『アラジン』のアラジン役でいかんなく発揮された伸びやかな歌声も記憶に新しいが、硬水にも軟水にもなれるそのウィスパーボイス、そして声質。サラサラ流れていくせせらぎのようで後味なく、しつこさもなくただただ心地よさだけが残る。

 何度でも役を脱ぎ捨てられるのは、脱いでも脱いでもなくならない確たる芯があるからだろうし、だからと言ってその確たる芯にばかり固執せずにそれぞれの作品内で役として生き切っているからでもあるのだろう。

『水曜日が消えた』(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会

 そんな中村が1人7役という偉業を成し遂げてしまう現在公開中の映画『水曜日が消えた』。ミュージックビデオでしか観たことのないような設定を、ストーリーありきでやってのけてしまうのだ。かつ、この7人ともが既出のMVとは違って、非日常な特徴的なキャラクターではなく、どの人物も一般的な設定であり演じ分けが非常に困難だからこそ余計に衝撃なのだ。自粛明け、初めて映画館で観る1本目に全力でオススメしたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■公開情報
『水曜日が消えた』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:中村倫也、石橋菜津美、中島歩、休日課長、深川麻衣、きたろう
監督・脚本・VFX:吉野耕平
音楽:林祐介
主題歌:須田景凪「Alba」(unBORDE / Warner Music Japan)
製作幹事:日本テレビ 日活
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
配給:日活
(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会
公式サイト:wednesday_movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる